7月29日の国会質疑で山本太郎議員が「原発がミサイル攻撃された場合の被害想定は?」と問いただしたのを、ホリエモンが池田信夫氏の「東京に撃ち込んだら数万人殺せるのに、なんで(命中確率ほぼゼロの)原発をねらうんだ。金正恩も自分と同じようなバカだと思ってるのか。」というツイートを引用して「アホすぎる」とツイートしました。
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山本太郎アホすぎる笑
「原発がミサイル攻撃された場合の被害想定は?」 山本太郎氏が安倍首相を問いつめる - http://t.co/wfoOpo1gm5
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2015, 7月 30
IWJメルマガより引用
そして早速、安倍政権におもねる形で批判を展開し、炎上ビジネスに奔走する人たちが、騒ぎ始めました。その筆頭格のホリエモンこと堀江貴文さんは、「山本太郎バカすぎる」と、自分のことを棚に上げて罵倒したうえで、得意気に以下の池田信夫氏のツイートをリツイートしました。「東京に撃ち込んだら数万人殺せるのに、なんで(命中確率ほぼゼロの)原発をねらうんだ。金正恩も自分と同じようなバカだと思ってるのか。」
…しかし残念ながら、これは間違いだらけです。
まず、「東京に撃ち込んだら数万人殺せるのに」というのは、池田さんは勝手に核ミサイルか何かを想定しているのでしょうが、山本議員が指摘しているのは弾道ミサイルです。つまり通常弾を搭載したミサイルでの攻撃も念頭に置いているんですね。通常のミサイルだと、せいぜいビル一棟の破壊が関の山です。
それでどうやって数万人を殺せるのでしょうか? ミサイルは全部、核兵器並みの破壊力を持っていると思い込んでいるのでしょうか? あるいは核ミサイルを念頭に置いているなら、いつの時代の核兵器なんだ、という話です。広島、長崎に投下された原爆と、水爆実験に成功したあとの現代の核兵器とでは破壊力の桁が違います。核ミサイルの場合なら、犠牲者は数万人ではすまない。数百万人のレベルでしょう。
いや、弾道ミサイルは命中率が極めて低いから当たらない、という反論もあるでしょう。であればこそ、敵国が発射するミサイルが一発とは限りませんよね。中国が日本に向けているミサイルは約100基ともその倍とも言われています。
さらに言えば、最近では中国の弾道ミサイルは多弾頭(と報じられています)。原発の建屋に命中しなくても、建屋を中心とする原発施設一帯に何発か着弾させれば、地上に無防備に露出している送電線や冷却水のポンプやパイプなどの付属施設、そして免震重要塔が破壊され、それでもう完全にアウトです。全電源喪失の事態に誰も復旧できず、メルトダウンします。
3.11で、僕らはそれを嫌というほど学んだはずですよね。ホリエモンやノビーは何も学ばなかったのかもしれませんが。山本議員の指摘は、そうした事態を念頭に置いたものでしょう。
いやいや、そういう時のためのミサイル防衛システムがあるのだ、という反論もあるでしょう。日本におけるミサイル防衛は、6隻のイージス艦と、地上配備型の地対空誘導弾「PAC3」です。しかし残念ながら、このPAC3がカバーできる範囲は、ごくごく限られています。
PAC3は基本的に米軍基地の周りに配備され、米軍を守るものです。原発はどれもこれも、PAC3によって守られてはいません。ノーガードなのです。あの福島原発もです。今もなお、裸同然の無防備さで海岸に吹きさらしのまま突っ立っているわけです。標的にならないほうがおかしいくらいです。
これから焦って配備を増やしたとしても、PAC3の命中率は低く、数分で飛んで来るミサイルをすべて撃ち落とせる確率はきわめて低い。かつて防衛省の高官だった柳澤協二さんは、岩上さんのインタビューにこたえて、「これらのミサイル防衛システムは象徴的なもので、現実には防御できない」と、ずばり答えています。
つまり、原発はミサイルの標的にならないとか、標的とされても大丈夫などと言い出すのは、白昼の妄想か、別の何かのせいですね。
さらにさらに忘れてはならないのは、岩上さんが独自に入手し、何度もIWJの番組やトークイベントで紹介している、米軍と自衛隊の共同軍事演習「ヤマサクラ」では、中国を想定した「敵国軍」の上陸ポイントは、原発銀座の若狭湾とされているのです。
若狭湾でドンパチが起こりうることを、自衛隊と米軍がシミュレーションしているんですね。つまり、戦争になった場合、若狭湾に上陸しようと狙う敵軍が、海からも空からも爆撃や艦砲射撃で狙ってくる可能性だってあるのです。我が方も応戦したら、戦場と化す原発銀座は、どうなることか、誰でも想像がつきますね。
原発を狙うメリットなんかない、そんなことをしたら近隣諸国にだって影響が出るだろう、という反論をする人もいるかもしれません。しかし過去に、イスラエルは1981年に近隣のイラクの原子力施設を爆撃していますし、そのイスラエルの原子力施設に対してもハマスのロケット弾が発射されています。現代戦において原発は、軍事的な攻撃目標として狙われうるのです。
「だからこそ、その抑止力として安保法制が必要なんだ!」と怒る人もいるかも知れません。しかし、だからこそ安保法制は危険なんですよ。参議院審議では、「相手国が日本を攻撃していなくても」「日本への攻撃の意思がなくても」、日本は「先に攻撃」することもありうると政府は述べています。実質的な「先制攻撃」ですよね。
もし、日本が先に攻撃したら、報復は正当化されてしまいます。その時には最悪、何百発というミサイルが、東京か、原発か、どちらか、ではなく、東京にも大阪にも名古屋にも福岡にも、米軍と自衛隊の各基地も、そして各地の原発施設にも、雨あられと降り注ぐでしょう。それに対して、米軍が仮に報復攻撃をしたところで、我々日本人にとって何か意味がありますか?
中国研究の第一人者の矢吹晋・横浜国大教授は、一昨日の岩上さんのインタビューにこたえて、「圧倒的に優勢な中国のミサイルが降り注いだら、その時には日本は完全に『死の島』になります。誰ももう住めない。なんの意味もない」と断言されました。
中国はまさに圧倒的脅威です。だからこそ、死ぬ気の外交努力(本当はそんな困難なことではないのですが)で抑止する必要があるんです。少々の兵器で抑止力などならない。喧嘩腰になって、しかも先制攻撃するだなんて、バカな挑発をして、何になるんでしょうか。
この安保法制や、安倍総理の対中強硬策は、中国の軍部が予算を増大させるための格好の餌になってしまっています。これも、矢吹晋名誉教授が指摘しています。つまり、戦争リスクがどんどん高まり、エスカレーションしていく一方なんですね。
軍事の専門家からすれば、僕のこの指摘も、穴だらけかも知れません。しかし、こうしたリスクの議論は、常にしていかなければならないはずです。それを、まともなシミュレーションも、対策も講じていない、というのはおかしいでしょう。ましてや、ホリエモンさんのように、山本太郎議員をつかまえて「バカ」と罵るのは、あまりにもバカげていて、日本の国防を真剣に考えるうえで、愚かだと言わさるを得ません。
ホリエモンはいい悪い、好き嫌いは別として、昔はもっとスケールが大きかった気がしますが、今では・・