http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamaguchikazuomi/20161208-00065258/
12月6日付の朝刊各紙は1面トップで安倍晋三首相の「真珠湾訪問」を大々的に報じていた。見た瞬間、私は胸がえぐられるような思いに駆られた。このカードをここで切ってくるのか。安倍さんという人は自らの政権維持や選挙のためなら何でもやる人なんだ、と。
今回の真珠湾訪問でいえば、例えば、なぜいま突然なのか? 戦後の歴代首相が真珠湾訪問(慰霊)を封印してきたのは、それが“謝罪外交”につながると見られたからだ。現職首相の真珠湾訪問は日本政府にとっての重要な“切り札”だ。それを安倍首相はなぜ、かくもあっさり出したのか。東京で手に入る限りの新聞をひっくり返したが、腑に落ちる答えはどこにもなかった。
あえて言うと、今年5月にオバマ米大統領が被爆地・広島を訪れたことの“返礼”の意味合いがあるという判で押したような解説はあった。だが、思い出してみてほしい。安倍首相はオバマ大統領の広島訪問に際しての記者会見で、「現在、ハワイを訪問する計画はない」ときっぱり否定していたのだ。米大統領の広島訪問は実現したが、原爆投下に対する謝罪はなかったのだから、これもひとつの判断だ。それがなぜ、わずか半年後に方針転換したのか。いま伝えるべきは、その“方針転換”の意味ではないか。
答えは、容易に想像がつく。11月17日にニューヨークで行われた“異例”の「トランプ・安倍会談」に対する“お詫び”である。
安倍首相は米大統領選の直後、世界の首脳に先駆けて次期大統領であるドナルド・トランプ氏との会談に“成功”した、と伝えられた。この時も、報道が「礼賛一色」だったことを思い出してほしい。だが、オバマ大統領が現職でいるうちの次期大統領への表敬訪問は、外交的に著しく非礼なことだ。だから、どこの国もそんなことにチャレンジしない。「世界の首脳に先駆けて会談に成功した」というのは、そういうことだ。
当然、アメリカの現政権は激怒した。とくにキャロライン・ケネディ駐日大使は日本政府に強く抗議したと伝えられる。その結果、APEC首脳会議のために訪れたペルー・リマで11月20日に予定されていたオバマ大統領との日米首脳会談が流れ、たった5分間の立ち話になった。安倍首相は、この立ち話会談で「真珠湾訪問」というカードを切って、なんとか許しを請うたのだ。ホワイトハウスがこれを“歓迎”するのは当然なのだ。そう考えると合点がいく。
さらに考えてほしいのは、そもそもの「トランプ・安倍会談」も“お詫び”だったということである。
安倍首相は外交政策の目玉として日ロ関係の改善を模索していた。今月15日にはプーチン大統領の来日が予定され、あわよくば北方領土返還への道筋をつけようとしていた。ところが、米オバマ政権は日ロ接近を面白く思っていなかった。そこで、安倍政権はオバマ大統領が悲願とするTPP協定批准を援護射撃することで、日ロを黙認してもらうシナリオを描いた。安倍政権が他国に先駆けてのTPP批准を急いだのはそういう理由だ。
さらに、このシナリオを確実なものとするため、安倍首相は米大統領選挙期間中に一方の候補者であるヒラリー・クリントン氏との会談に踏み切った。先進国の首脳が選挙のさなかに一方の候補者だけに会うのも極めて異例なことだ。安倍首相(というか日本の外務省)はヒラリーの勝利を確信していた。この時点では、安倍首相にとってヒラリー氏は“次期大統領”そのものだった。
ところが、選挙はトランプ氏の勝利に終わり、当初のシナリオは崩れ去った。安倍首相は選挙期間中にヒラリー氏と会談した非礼を詫びるため、急ぎ会談がセットされた。先進国の首脳が、現職の大統領(オバマ氏)を差し置いて次期大統領(トランプ氏)と会談するのは“異例”というより“異常”なことだ。だが、このときも報道は「礼賛一色」だった。
安倍首相とトランプ氏の会談内容の詳細は明らかにされていないが、「週刊現代」(12月10日号)に「安倍官邸大パニック」の見出しで興味深いエピソードが書かれている。トランプとの会談を終えてリマに乗り込んだ安倍首相は、会う人ごとに「私は数日前に、ニューヨークでトランプとじっくり語り合ったんだけどね」と自慢げに吹聴していたという。ところが、安倍首相が現地での記者会見で「TPPは米国抜きでは意味がない」と言い切ったわずか18分後に、トランプ氏がビデオメッセージを公開し、「わが国に災厄をもららす恐れがあるTPPからの離脱の意思を通告する」と宣言する。これを聞いた安倍首相の顔は引きつり、言葉も出なかった、という。
月刊誌「選択」(12月号)は〈それは政権の座に返り咲いてから約四年、安倍政権が掲げる「地球儀俯瞰外交」の大きな柱が崩れ落ちた瞬間でもあった〉と書いた。
だが、こうした事実報道や分析・解説が読めるのは、雑誌ばかりだ。新聞やテレビではほとんど見られない。15日からのプーチン大統領来日、月末の真珠湾訪問と、また「礼賛一色」に染まるのかと思うとうんざりだ。永田町では早くも「真珠湾解散」などという声すら上がり始めているようだ。
6日配信の日本経済新聞電子版は、〈1月解散風再び 真珠湾訪問、支持率向上の思惑〉というタイトルで、自民党幹部が「真珠湾訪問で支持率も上がるだろう。やるなら1月解散だ」と語ったと伝えている。「オイオイ」と思うのは、私だけではないだろう。
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以下ネットの反応。
ロシアに近付くな、という米政府の言いつけを破る→米政府激怒→お詫びに大統領選挙中、トランプをシカトしてヒラリーだけに会いTPPを必死に強行採決→トランプが勝利→お詫びに異例のトランプ表敬訪問→米政府激怒→お詫びにオバマと真珠湾訪問https://t.co/SnRpSAhtAH
— きづのぶお (@jucnag) 2016年12月8日
@kazu1961omi 山口さんの切り口がジャーナリズムだよな、この鋭さ懐かしくなる現状はやっぱり寿司効果?
安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由(山口一臣) - Y!ニュース https://t.co/zDq43kwObT— LoveBeer@大不便者 (@_LoveBeer_) 2016年12月8日
安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由(山口一臣) - Y!ニュース
マスコミはなぜ背景を報道しないのか? キャロライン・ケネディ大使にトランプ訪問を強く抗議され、おわびに真珠湾訪問。https://t.co/EmYB3AWj1Y— yuki (野党勝利!) (@yukiyanagi3333) 2016年12月9日
安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由https://t.co/P8pdUFV6d2
⇨さすが山口一臣さんだ。政府の異例もとい異常続きな外交行動が、山口氏の解説でサクサクと理にかなったパズルのピースになる。そして出来上がった絵は・・・。— 毛ば部とる子 (@kaori_sakai) 2016年12月8日
マスメディアの表面的な礼賛報道よりも、この見方のほうが正鵠を射ているように思う。→安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由(山口一臣) - Y!ニュース https://t.co/LWvTHbMTwi
— 鈴木 耕 (@kou_1970) 2016年12月8日
”トランプ氏が「わが国に災厄をもららす恐れがあるTPPからの離脱の意思を通告する」と宣言する。これを聞いた安倍首相の顔は引きつり、言葉も出なかった、という。”
安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由(山口一臣) https://t.co/fPwxOYyoBQ
— indigo (@ingigo33) 2016年12月9日
「安倍首相はオバマの広島訪問に『現在、ハワイを訪問する計画はない』ときっぱり否定していた。それがなぜ、わずか半年後に方針転換したのか。いま伝えるべきは、その“方針転換”の意味ではないか」
礼賛一色のメディアには耳が痛い良記事。https://t.co/oBtQpLoqj5
— Hiroshi Takahashi (@SeroriHitomi) 2016年12月9日
「お詫び」は同感。NHKで岩田記者が安倍首相の自らの意思を強調してたのは、その裏返しかなあ。半強制っていう話が出てるのを抑えるためかと。
→安倍首相が「真珠湾訪問」をどうしてもしたかった本当の理由(山口一臣) Yahoo!ニュース https://t.co/RLnQWOfYVw— 木野龍逸 (Ryuichi KINO) (@kinoryuichi) 2016年12月8日
<室井佑月さん>
【安倍首相「オバマさんヨイショ」の真珠湾訪問】https://t.co/1TLDSQwoSj
「戦没者の慰霊の為であって、謝罪の為ではありません」菅官房長官
トランプ会談を謝罪 靴を舐めに行く @iwakamiyasumi @tim1134 pic.twitter.com/GQRMCHY148
— 斉羽 (@bianconoce) 2016年12月10日
それがなぜ、わずか半年後に方針転換したのか。いま伝えるべきは、その“方針転換”の意味ではないか。
「現在、ハワイを訪問する計画はない」と言っていたとは知りませんでした。「真珠湾訪問」という切り札をなぜ使うのかを追求しないなんてメディアじゃないですよね。
そして、保守を名乗っている人たちは「真珠湾訪問」はオッケーなんでしょうか?文句の一つも聞こえてきませんが・・