【もう地球人は信じられない！】ウクライナで「ダース・ベイダー」候補を応援した「チューバッカ」が選挙法違反で逮捕！？「ダース・シディアス」は当選！政治家をゴミ箱に捨てる「ゴミ箱キャンペーン」も

投稿日：2015/11/07/ 02:12

http://www.bbc.com/japanese/video-34707232
ウクライナ南西部オデッサで統一地方選挙の投票が行われた10月25日、映画「スター・ウォーズ」シリーズのキャラクター「チューバッカ」の扮装をした男性が逮捕された。投票日になっても、候補者の「ダース・ベーダー」支援の選挙活動を展開していたためと。

Lenin monument replaced with Darth Vader statue after Ukraine bans all Soviet memorabilia

http://karapaia.livedoor.biz/archives/52203897.html

ウクライナで行われた25日統一地方選の投票が行われ、映画『スター・ウォーズ』の悪役に扮した候補者「ダース・シディアス」の当選が確定したそうだ。彼は今後、ウクライナ南西部・オデッサで市議会議員として政治を任されることになるという。

http://tabi-labo.com/52455/ukraine-internet-party/
またウクライナでは、親ロシア派の政治家がゴミ箱に捨てられるという「ゴミ箱キャンペーン」なるものも展開しており話題になっていた・・・。

以下ネットの反応。

やっぱりウクライナセンスあるわ笑ダースベイダー卿が選挙に立候補とか爆笑すぎる笑しかもチューバッカやばい笑裁判所で銀河銀行券しかもってないとかやばい笑 pic.twitter.com/jNdue55CTN

— ボボンゴ中山 (@Bikari212Kuro) 2015, 10月 27

ウクライナ地方選最初の当確、オデッサ市コトフスキー地区議員にダースベイダー卿の立候補で有名なインターネット党のパルパティーン皇帝。得票率54%で当選。オデッサ市長「信じられない」。 https://t.co/UjDROEGdwa pic.twitter.com/IfRUccKaCA

— Jun / Джюн (@hitononaka) 2015, 10月 26

「ウクライナ・インターネット党」は今回の選挙に１７人の候補を出し、「ダース・ベイダー」だけでも６人出たらしいです。こういった候補を出すのは「もう地球人は信じられない！」という思いが根底にあるのでしょうかね。わかりますその気持ち。

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-政治経済
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アラガイ熊より:

2015/12/12/ 11:19 11:19 AM

ご無沙汰しております。スターウォーズの新作公開も迫り、ルーカス馴染みの神話学者の対談番組を書き起こしてみました。

神話の力「第１回　英雄伝説」（1994年1月放送）

（暗闇の合間から白煙と炎が広がっていく。宇宙ロケットの打ち上げ　青空）
（アポロ計画、宇宙服で月面移動車を運転。シートベルトしてなさそう）

（1963ワシントン大行進、キング牧師の演説）
「私には夢がある。それは、いつの日か、あらゆる谷が高められ、あらゆる丘と山は低められ、でこぼこした所は平らにならされ、曲がった道がまっすぐにされ、そして神の栄光が啓示され、生きとし生けるものがその栄光を共に見ることになるという夢である。」
（ガンジー、女性飛行士、黒人ランナー、アインシュタイン、女性舞踏家、ピカソ、マザー・テレサ、1978キャンプ・デービッド合意）

キャンベル [1904年ニューヨーク生れ。神話研究の世界的権威。思想、芸術など各界に幅広く影響を与えた。1987年没]　：
　我々は、もはや独力で冒険に挑む必要は無い―　古今の英雄が道を拓いてくれている、迷宮は知り尽くされている。我々はただ英雄の跡を辿ればいい、そうすれば恐るべき怪物に遭うハズのところで、神に出会う。他人を殺すハズのところで、おのれの自我を殺す。外界へ旅をするハズのところで、自分の内面に辿り着く。そして孤独になるハズのところで、全世界と一体になる。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ビル・モイヤーズ [1934年オクラホマ生れ。アメリカを代表するテレビジャーナリスト。この番組の企画制作を担当。]　：
　神話学の世界的権威であったジョーゼフ・キャンベルは、「すべては物語から始まる」と信じていました。そこでまず彼のお気に入りの話を、紹介しましょう。
　宗教に関する会議で日本を訪れていたキャンベルは、あるアメリカ人学者が神道の神官にこう言うのを耳にしました、「私たちは、神道の儀式に数多く参加して神社も沢山見ましたが、あなた方の思想も教義も理解できません」。

　すると神官はしばらく考え込み、こう答えました、「私たちには思想も教義も無いと思います、私たちは舞を舞うだけです」。キャンベルも神話について、そう言いたかったのかも知れません。彼にとって神話は、思想でも教義でもなく、時代を超えて受け継がれてきた音楽なのです。
　キャンベルは1987年に83歳で亡くなるまで、およそ20冊の著作を世に送り、研究者だけでなく芸術家などにも影響を与えました。中でも「千の顔を持つ英雄」や、「神の仮面」は古典的名著です。

　ジョーゼフ・キャンベルにとって、神話は「宇宙の歌」であり、人間の意識の底に深く染み込んだ音楽でした。人間は神話という音楽に合わせて舞っているのです。
　キャンベルが亡くなる前の２年間にわたり、彼の友人の映画監督ジョージ・ルーカスの邸宅で、私は彼と対談を行いました―　それがこの番組です。ルーカスの３部作映画、スターウォーズはキャンベルの影響を強く受けています。私たちは神話の意味やメッセージ、愛や宗教などについて語り合いました。
　まずは彼の本の題名にもなっている、「千の顔を持つ英雄」の話です。

☆　　第１回　英雄伝説　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「千の顔を持つ英雄」とは、どういう意味ですか？
キャンベル　：
　英雄は、それぞれの土地や時代によって様々に異なりますが、実は彼らには決まった行動パターンがあります。どの英雄も同じ行動パターンを繰り返していて、まるで同じ人物のようです。同じ人物が「千の顔」を持って、いくつもの物語に登場しているかのようです―　ですから「千の顔を持つ英雄」なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話には英雄の物語が随分たくさんありますが、どうしてでしょうか？
キャンベル　：
　それが「語り伝えられる値打ち」があるからです。神話以外の物語でも、主人公は英雄的な人物であることが多いですしね。英雄とは、普通の人が成し遂げたり、経験したりする以上のことを発見したり、やってのけたりする人のことなんです。
　なにか自分より大きいもの、強いものに人生を懸けて挑んだりする人の物語です、そういうものは「語り伝える」に値するわけです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先ほど「英雄には共通の行動パターンがある」と仰いましたが、それはどんなものですか？

キャンベル　：
　２つ種類があります、１つは肉体的な行為です。英雄は、戦いという肉体的な行為を行います、そして他人の命を救います。　―他人のために自己を犠牲にし、自らの命を捧げるんです。
　もう１つは精神的な行為です。英雄は人間の精神の「未知の領域」に踏み込むことを学び、その経験を人びとに伝えます。英雄は日常を超えた冒険の旅に出かけ、そして戻って来ます。「旅に出て、そして再び帰ってくる」というサイクルも、共通した行動パターンです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：英雄は、自ら進んで旅立つんですか？
キャンベル　：
　そうであることもありますが、そうでないこともあります。例えばケルト人の神話にこんな話があります。ある英雄が、鹿か何かの動物に誘われて後を付いて行くうちに、それまで来たことのない深い森の中に入り込んでしまう　―すると、その動物が変身して妖精の女王になるんです。この場合、英雄は気がつくと冒険の最中にいたわけで、自分の意志で旅に出たわけではありません。
　一方、自分の意志で旅に出る例は、ホメロスの叙事詩に登場するオデュッセウスの子のテレマコスの冒険です。テレマコスは父オデュッセウスを捜す旅に出ます。父親捜しは若者の冒険にしばしば共通するテーマで、自分の本質やルーツを見つけ出すための自己発見の旅なんです。テレマコスは、その冒険の旅を、自らの意志で始めます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　英雄の物語は、文化によって違うものですか？

キャンベル　：
　文明の「進化の度合い」によって違いがあります。ごく初期の原始的な文明では、英雄は怪物退治に行くのが典型的な形でした。それは野蛮で危険な荒野で、人間が自分たちの世界を作り上げようとしていた時代です。そこには人間を脅かすものもあったでしょう―　そこで英雄たちは怪物を退治して回るんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　英雄は思想や理念と同じく、時代と共に変化するんですね。

キャンベル　：
　そう、文化が進むにつれて英雄も変化します　―たとえばモーゼも１つの英雄像です。彼はシナイ山に登り、山頂で神の言葉を賜ります。そして全く新しい社会を作るための戒律「十戒」を持って帰るわけです。これは正しく英雄の行為です、モーゼは旅立ち、何ごとかを成し遂げ、帰ってくる―　という英雄に共通のパターンを踏んでいるんです。
　釈迦はキリストより５００年前に生きた人ですが、キリストと非常に良く似た経験をしました。二人には共通する要素が数多くあって、弟子たちの性格までよく似ています。

　キリストには典型的な英雄の行為が見られます、彼は荒野で３つの誘惑に遭いました。空腹だったイエスに悪魔が先ずこう言います、「この石にパンになれと命じるがいい」。しかしイエスは答えます、「人はパンのみによって生きるのではなく、神の言葉によって生きるのです」。
　次に悪魔はイエスを高い山の上に連れて行き、世界の国々を見せて言います「お前が私の前にひれ伏すなら、全世界をお前に与えよう」。しかしイエスは拒否します。さらに悪魔はイエスを神殿の上に立たせて言います、「お前が神の子なら飛び降りてみるがいい、神がお前を守ってくれるだろう」。しかしイエスは答えます、「主なる神を試してはならない」。　　―こうして３つの誘惑を退けたんです。

　釈迦も、同じように３つの誘惑を受けました。釈迦は修行の年月を経て、悟りの木である菩提樹の下に至り、そこで３つの誘惑を受けます。悪魔は第１に肉欲で誘いました、第２に恐怖心を抱かせて心を乱そうとしました。第３は世の中の掟に従い、多数の人の言いなりになれと誘いました。しかし釈迦は、そのいずれにも心を動かされませんでした。
　こうして釈迦もキリストも試練を克服し、新たな境地に到達して、その経験を弟子たちに伝えました。これは精神的な偉業で、正に英雄の行為です。モーゼ、キリスト、釈迦、そしてマホメットもそうです。

　マホメットは、ラクダのキャラバン隊を率いる商人でした。彼は山で小さな洞穴を見つけ、そこで瞑想に瞑想を重ねていました。するとある日、声が聞こえたんです、「書くのだ」　―それでコーランが生まれたという訳です。

○　英雄は旅立ち、成し遂げ、生還する

ﾓｲﾔｰｽﾞ：今日の社会では、何が英雄の神話を生み出すのでしょう？　映画でしょうか？

キャンベル　：
　それは分かりません。もっとも私が子供の頃は、確かに映画が英雄を生み出していました。その頃はまだトーキーではなく、白黒映画でした。映画に登場する英雄たちは、私にとってひとつの理想像でした―　「あんなふうになりたい」と思ったものです。一番あこがれていたスターは、ダグラス・フェアバンクスです。
　私はダグラス・フェアバンクスと、レオナルド・ダ・ヴィンチを合わせたような人間になるのが夢でした（笑）。その二人が、私の英雄だったんです（笑）。

☆★☆　ここから「スターウォーズ」（エピソード４・５）の映像を織り交ぜながら　☆★☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「スターウォーズ」のような映画は、「英雄の冒険」としての要件を満たしていますか？

キャンベル　：
　完璧に満たしています。主人公たちは冒険に旅立ち、戦いで勝利を収め、そして帰還します。これは英雄の行動パターンに見事、あてはまっています。「スターウォーズ」は、単純な勧善懲悪な物語ではありません、人間の精神的な力まで描いています。
　あの映画の素晴らしい点のひとつは「未知の世界」である宇宙へ、私たちを連れて行ってくれることです。昔の冒険物語でも多くの場合、未知の世界が舞台でした　―それが現代では宇宙なんです。私たちは今では地球を知り尽くしているので、地上ではもう「想像力をかきたてる」冒険は成立しにくくなっています。しかし宇宙という、まだまだ未知の空間でなら、自由に想像の翼を広げることが出来るんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「スターウォーズ」などの映画には、神話に登場するような英雄が描かれていると言えるんでしょうか？
キャンベル　：
　監督のジョージ・ルーカスはあの映画で、確かに英雄と言える人物を登場させています。オビ=ワン・ケノビがそうです、主人公ルークの助言者であるケノビは、日本の剣術の達人を連想させます　―ケノビには神話の英雄に通じる部分があります。

☆オビ=ワン（ルークにライトセーバーの指南中）　：　ジェダイはフォースの流れを感じる。
☆ルーク　：　身を任せるの？
☆オビ=ワン　：　身を任せながら支配するのだ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　若者が出会った人物からモノを授かったり、助言を受けたりするのが神話的ですね。ルークは光の剣を授けられますよね？
キャンベル　：
　ケノビは、ルークに形のあるモノを与えるだけではありません、精神的なものも授けるんです。光の剣で訓練をするとき、マスクを被りますが、あれはまるで日本の剣道のようです。

☆オビ=ワン（ハン・ソロにフォースをインチキ呼ばわりされて、目隠し付きのヘルメットをルークに被らせる）　：
　今度は意識を捨てて、本能に任せるのだ。
☆ルーク　：　目隠しされて、防げるわけないよ。
☆オビ=ワン　：　目に頼ってはいかん。
　
ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　私は２人の息子を連れて、「スターウォーズ」を観に行きましたが、クライマックスでオビ=ワン・ケノビの声がルークに届くと、観客は一気に盛り上がりましたね。
　私の息子たちも、ほかの観客たちも拍手喝采でした。

☆オビ=ワン（レッド中隊で直径120Kmのデススターの弱点・原子炉の排熱口（幅２m）を攻撃中のルークに念話で）　：
　フォースを使え、（自動照準）装置を切れ。

キャンベル　：
　確かにあのシーンでは兄弟が沸きましたね、いまの若者たちの心に訴えるものがあったんでしょう。

☆ハン・ソロ（レイア姫の「同盟軍への協力は当然」的な物言いに対して）　：　革命もアンタも、おれは興味ないね、金が欲しいだけだ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ハン・ソロは初めは欲得づくで行動していましたが、最後は英雄になりましたね。
キャンベル　：
　ソロは自分をとても計算高い性格だと思っていました、彼には情にもろい面もあったんですが、自分ではそれに気付いていなかったんです。
　冒険によって、彼の中に眠っていた性質が呼び覚まされたんです。ソロは自分を利己主義者だと思っていますが、本当は愛すべき人物です―　世の中には、そういう人が沢山います。本人はエゴで動いているツモリですが、実は、何かほかのモノが彼を動かしているのです。

☆レイア（帝国軍に引き渡され凍結されるハン・ソロに）　：　愛してる
☆ハン・ソロ　：　分かってる　（悲しむチューバッカの嗚咽の中、ソロ凍結(｀・ω・´)シャキーン）

☆ハン・ソロ　：　いやな予感がする・・・（ごみ溜めに閉じ込められたソロ達を、両側の壁が動き出して「押し潰し」にかかる）
☆レイア　：　早く、つっかい棒して！

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　このごみ溜めのシーンでは、旧約聖書でヨナが大きな魚の腹に入った話を思い出しました。
キャンベル　：　確かに彼らは、魚の腹の中に入ったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話では、「魚の腹」は何を意味するんですか？
キャンベル　：　暗闇に転落するということです。英雄が魚や鯨の腹に入って、また出てくるというのは、神話によく見られる話です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　英雄はナゼそんなことを？
キャンベル　：
　鯨や魚は無意識の中にある全てのものの象徴です。心理学的にいうと、水は無意識を表し、水中の生き物は無意識の領域に閉じ込められたエネルギーを表すんです。　―それは強力で、危険です。意識によって打ち負かして、コントロールしなくてはいけません。英雄が海の怪物を打ち負かそうというのは、これを象徴しているんです。
　英雄は冒険に挑むとき、住み慣れた世界を離れて、別の世界の入り口へとやってきます　―そこでは闇の力を持つ怪物が待ち構えています。怪物との対決の結末には、いくつかのパターンがあります、英雄が八つ裂きにされて奈落の底に落ち、後に復活する場合もあります。

　あるいはジーク・フリートが竜を退治したように、怪物を殺すこともあります。面白いことに、ジーク・フリートが退治した竜の血を口にすると、彼の耳に自然の歌が聞こえてきます―　つまり彼は自然の力と結合することが出来たんです。
　自然の力、すなわち生命の力とのつながりを、人間は知性を持ったせいで失っています。それをジーク・フリートは取り戻したという訳です。「頭の中の意識や知性が、自分を取り仕切っている」と思うのは間違いです。人間全体から見れば、意識や知性は二次的なもので、絶対的存在になってはいけないんです。意識や知性は、あくまで肉体や心に従属するものでなければなりません。

☆ダース・米ダー　：
　仲間になれ、修行を完成させてやる。二人でこの不毛な争いを終らせ、銀河に秩序をもたらすのだ。（ルーク：　いやだ！）
　暗黒面のパワーは素晴らしいぞ、オビ=ワンに父親の話は聞いたか？（映像挿入　終わり）

キャンベル　：
　知性に支配されると、ダース・米ダーのような歪んだ人間になってしまいます。ダース・米ダーは人間性を無視して、体制を守るために生きています。
　世の中の体制は、私たちにとって脅威です。私たちはみんな社会の中で体制と関わりながら、向かいあいながら生きています。体制が私たちを食い尽くして、人間性を奪うのでしょうか？　それとも私たちが体制を、人間のために利用できるのでしょうか？　―それが問題です。
　
ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「体制をどう変えれば、私たちが支配されずに済むか」という疑問を解くのに、英雄たちの行動は参考になりますか？
キャンベル　：
　「体制を変える参考」になるとは思いませんが、「体制の中で生きていく参考」にはなるでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　例えばどんなふうに？
キャンベル　：　　ダース・米ダーの誘いを撥ねつけたルークの姿勢は、不当な圧力には抵抗すべきことを教えてくれます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　でも誰かがこう言いそうですね、「ジョージ・ルーカスの映画やジョーゼフ・キャンベルの本では、そういう状況もあるだろうけど、自分の人生には関係ない」と。
キャンベル　：
　…そんなことはありません。自分の置かれた状況に気づいていないだけです。もしある人が、自分の心の要求に耳を傾けず、世の中の習慣に迎合しているなら、その人は自分を崩壊させてしまう危険を冒しています。そういう人は、自分の肉体が全く望んでいない生き方に、自分を合わせているんです。
　世の中には、自分の心の声を聞くのを止めてしまった人たちがあふれています。私の人生でも体制に迎合して、その要求に従おうと思えばできる機会は何度もありました。でも私は独立独歩の一匹狼です、決して降参しませんでした。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　おそらく英雄は、誰の中にも潜んでいるんでしょうね？
キャンベル　：
　そういうことです、私たちは生きていくうちに、それまで知らなかった自分を発見します。あるきっかけで新しい領域に入り込み、自分が試されることもあります。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　例えばどんな？）　イロコイ・インディアンの伝説をお話ししましょう。
　アメリカ・インディアンの話にはしばしば出てくる話のモチーフがあって、私はそれを「求婚者の拒絶」と呼んでいます。そこから冒険が始まるんです。

　―ある娘と母親が、村はずれの小屋に住んでいました。娘はとても綺麗でしたが、ひどく気位が高くて、村の若者からの求婚をことごとく撥ねつけていたので、母親はすっかり手を焼いていました。
　ある日、ふたりは焚き木を集めに遠く離れた森へ行きました。焚き木を集めていると、そこへ不気味な暗がりが突然襲ってきます。それは日が暮れたからではありません、そういう暗がりは、どこかに潜む魔法使いの仕業なんです。そこで母親は言います、「さあ木の皮を集めて、小屋を作りましょう。それから焚き木を集めて火を起こすのよ、今夜はここで夜を明かしましょう」、母親は眠ってしまいました。
　娘がふと顔を上げると、目の前に大変立派な若者が立っていました。美しい飾りの付いた帯や、見事な羽根を身に付けています。彼は言います、「あなたと結婚しようと思って来ました、返事を聞かせてください」。娘は承諾し、母親も承知しました。若者は真剣であることの証に、自分の帯を母親に贈りました。そして彼は娘を連れて行きます。―　普通の男では不満だった娘も、今度は納得したわけです。でも、そこが運命の分かれ道です。奇妙な冒険が始まります

　―娘は若者に連れられ、彼の村に行きます。村の人々に歓迎され、娘はとても満足でした。翌日、彼は「狩りに行ってくる」と言って出かけていきました。ところが彼が入り口の戸を閉めたあと、外から奇妙な音がしたんです。娘は丸一日、小屋の中に一人でいました。
　夕方になると、また朝と同じ奇妙な音が聞こえてきました。すると戸がサッと開いて、大きなヘビが舌をチラつかせながら入ってきました。そして娘のヒザに頭を乗せ、「頭のシラミを取ってくれ」と言うのです。そのゾッとするような蟲を娘が全部取ってやると、ヘビは引き揚げて行き、戸が閉まりました。と思ったら、すぐまた戸が開き、あの素晴らしい若者が入ってきました、そして言います「さっき俺が入ってきたとき、恐かったかい？」、娘は「いいえ、ちっとも」と答えました。

　翌日も彼は狩りに出かけます、娘が焚き木を集めに外に出かけると、先ず目に入ったのは岩の上でトグロを巻いている大蛇でした。見回すとアッチにも一匹、コッチにもまた一匹…、娘は気味が悪くなって、元いた家が恋しくなりました。夕方になるとまたヘビが現れ、次に男が現れました。
　３日目彼が出かけると、娘はここから出て行こうと決心します。娘が小屋を出て、森の中で考えていると話しかける声がします。振り向くと小柄な老人がいて、彼女にこう言います、「娘さん、困ったことになったね。お前が結婚した男は７人兄弟の長男で、あいつらはみんな恐ろしい魔法使いだ。魔法使いは心臓を体の中に持っておらん奴が多いが、あの７人もそうだ。７人の心臓を入れてある袋が、お前の結婚した男の寝床の下に隠してある、それを持ち出しなさい。」

　娘は小屋で心臓の入った袋を見つけると、それを持って逃げ出しました。後ろから「止まれーっ」と声がします、魔法使いの声です、「逃げようとしても、そうはいかないぞー」。そのとき老人の声が聞こえます、「私が助けてあげよう」。老人は彼女を水の中から引き揚げます、娘は自分が水の中にいることすら知りませんでした。―

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それはどういうことですか？
キャンベル　：
　彼女が合理的な意識の領域を離れて、無意識の領域に入り込んでいたということです。娘は魔法使いと結婚したことで、超現実的な世界へ飛び込みました。そこで地の底の邪悪な力に捕らえられたところを、上からの善い力に救われたんです。
　結婚によって彼女は、狭い世界を出て、新しい世界に入る冒険をした。そこは自分の知識を超えた力が支配する領域です、大きな危険を伴う世界なんです。ですからその冒険は、「とんだ災難」に終ることもあります。しかしそこで救いの声が聞こえるかも知れない、そしてその冒険から新しい人生が開けるかも知れないんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そういった神話の物語は、それ以外のやり方では掴むことのできない真実を表現しようとしているんですよね？

キャンベル　：
　神話は、知ることの出来るものと、絶対に分からないものとの境界を表現しているんです。人生には、人間の探究を超越した神秘があります。人生とは何か―　それは大きな謎なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そのことを神話が教えてくれるわけですか？
キャンベル　：
　そういうことです。人生の神秘、自分自身の神秘を知ることは、生きていく上で大切だと思います。それは人生に新たな喜びを与えますし、新たな均衡や新たな調和を与えてくれます。
　心理療法では、患者は「自分の中で動いている歯車は何なのか」を見つけることで、軌道修正をします。それと同じように、人生とは何かを神話を通して考えることは、人間を助けてきたと思います。…それは明らかでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どういうふうに助けるんですか？
キャンベル　：
　神話を通して人生を考えることは、私たちの不安を打ち消してくれます。それは人生の避けがたい苦しみや悲しみと、何とか折り合って生きていくのを助けてくれるんです。それからマイナスと思われる物事にも、プラスの面があることを教えてくれます。例えヘビに出くわすことになっても、新しい世界に踏み出すことにはプラスの面もあるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それもまた冒険なわけですね？
キャンベル　：　そう、人生という冒険です。

○　人は心の中に　退治すべき「竜」を抱えている

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　アーサー王伝説や中世の騎士物語に出てくる竜の話には子供の頃、とても強い印象を受けましたが。
キャンベル　：
　ヨーロッパの竜は「貪欲さ」の象徴です、竜は何でもかんでも自分のところに取っておこうとします　―洞穴に宝物を入れて守ってるんです。宝物は例えば乙女や、黄金の山です。そのどちらも竜にとっては、どうしたらいいか分からないものだし、役に立たないものです。それなのにただ持っていたくて、番をしているんです。
　心理学的に言うと、竜は「ひとを自我に縛り付けているもの」を表します。人間は、自らの竜という檻の中に囚われているのです。精神科医の課題は、その心の内なる竜を退治することです―　束縛を解いて、より広い人間関係が持てるようにするんです。

　分析心理学の創始者ユングの所に来た患者で、孤独感を訴える女性がいました。自分の気持ちを絵にするように言われた彼女は、風の吹きすさぶ海辺で自分が岩に囚われている絵を描きました―　腰から下が岩に埋まっていて、生命力の象徴である黄金は、すべて岩の中に閉じ込められていました。
　しかしユングと話し合った後に描いた絵には、彼の言葉の影響が見られました。その絵では、突然のイナズマが岩を一撃しています。そして黄金があふれ出しているんです。もう岩の中に閉じ込められた黄金はなく、岩の表面のあちこちに出てきています。

　ユングが彼女と話し合った結果、その表面に出てきた黄金の正体が分かりました　―それは彼女の友だちだったんです。彼女は孤独だったわけではなく、自分を小さな世界に閉じ込めていただけで、本当は友だちがいたんです。分かりますか、これが竜退治です。恐れのように、「人を押さえつけているもの」が竜なんです。少なくても、ヨーロッパの竜はそうです。中国の竜は、また違いますがね。
　中国の竜は、水と生命力を表します。竜は腹を叩いて「はっはっはっ」と言いながら現れます。それは水などの恵みをもたらす、偉大な輝かしい存在です。でも西洋の竜は、人をダメにする、良くないものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ということは、もしそこに竜がいたら、それは…
キャンベル　：　真の竜は、心の中にいます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　真の竜とは？
キャンベル　：　人を押さえつける自我です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　自我とは何ですか？
キャンベル　：
　自分が望むもの、信じているもの、自分が出来ること、自分が愛していると思っているもの、また自分が人生の目的とみなしているもの、などです。それが小さすぎると、人を束縛します。それが竜なんです。
　またもし自我が、周囲の言うがままになっているようなら、それは間違いなく人を束縛します。自分を取り巻く環境が、「竜」になっているんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　一体どうすれば竜を退治できますか？　先生は「魂の高度な冒険をしなさい」と言われますが、それはどういうことですか？

キャンベル　：
　私がいつも学生たちに言うのは、「自分にとっての真の喜びを追求しなさい」ということです。無上の喜びを、恐れずに追い求めるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは一生の愛でしょうか？仕事でしょうか？
キャンベル　：
　人生そのものでしょう。もしそれが好きで選んだ仕事なら、この上なく幸せと言えるでしょう。でももし「こんなことはとても出来ない」と思いながらやっているなら、その仕事は人を束縛する竜です。「ああ自分にはとても無理だ、誰それのようにはできない」なんて思うならね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　英雄は世界を救うために、私たちは自分を救うために旅をするんですね？
キャンベル　：
　自分を救うことで、世界も救うんです。人間に活力が出てくれば、世界も活気づきます―　それは間違いありません。世界を変えるには、その仕組みや法則を変えることだと思っている人がいますが、そうではありません。世界は生きていなければいけません。世界に命を与えるには、ひとりひとりの人間が、自分の人生を見つけて、活力を持って生きることだと私は思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人は旅をして、竜を退治しなくてはならないんですよね―　ひとりでですか？
キャンベル　：
　誰か、助けてくれる人がいるなら、それもいいでしょう。でも最終的には、やはり自分でやらなくてはいけません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話の旅では、誰もがある場所を見出そうとします。仏教徒は涅槃というものを語りますし、キリストは平和を語ります―　休息の場所です。見出すべき場所があるのは、英雄の旅の特徴ですか？そしてその場所とは、何なのでしょうか？

キャンベル　：　
　それは自分自身の中にある休息の場所です。例えばスポーツ選手では、こんなことがあります。
　優勝を手にするような最高のコンディションにある選手は、自分の内部に「静かな一点」を持っています。彼の動きは、その一点から生まれるんです。もし彼のすべてが動きの世界にあったら、うまくいかないでしょう―　動きを生み出す「静かな一点」があるんです。

　私の妻のジーンはダンサーですが、ダンスでも同じだと言います。自分の中にある「静かな中心」を知り、保つことが必要なんです　―それは肉体的に感じ取れるものです。その中心が見つからないと、心が乱れて踊りがダメになってしまいます。
　ところで仏教徒の言う涅槃とは、精神の状態のことです　―天国のような、場所ではありません。涅槃は、この騒がしい人生の真っ只中に存在します―　輪廻転生と呼ばれる、人生の渦の中にあるんです。

　涅槃は、どんなときに生まれるかというと、その人が欲望や恐れや社会的しがらみに引きずられることがなくなって、自分の中心を見つけて行動できるようになったときです。そのときに生まれる精神の状態が、涅槃なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　釈迦も他の英雄も、真理そのものではなく、真理に到る道を示しましたね？
キャンベル　：
　でも、その人が進む道は、結局はその人が決めるしかありません。例えば釈迦は、その人の恐怖を取り除く具体的な方法を示すことは出来ないんです。教師たちはいろいろな方法を教えられるかもしれませんが、それがその人にとって役立つとは限りません。彼らに出来るのは、せいぜいヒントを与えることだけなんです。

○　人の意識を高めるもの　それは神話である

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私たちはどうすれば意識を高められますか？
キャンベル　：
　意識というものは、その人が何を考え、何を瞑想するかによって左右されます。人生のすべては瞑想です。その大部分は、知らず知らずのうちにしているものですがねえ。多くの人は人生の大半を、「お金がドコから来てドコへ行くのか」という瞑想に費やしています。
　あるいは家族がいる人なら、その家族のことを思い煩うでしょう　…子供が健全な体や、立派な精神を持ってほしいと思う。しかし、もしあなた自身が、崇高な精神を持っていないなら、子供たちに伝えられるわけがありません。どうすれば意識を高めることが出来るでしょうか？ひとつのヒントは神話です。神話は、私たちの意識を崇高なレベルにまで導いてくれます。

　意識が高まることを実感できるひとつの例を挙げましょう。ニューヨークに来て、５番街のセントパトリック教会に来たときがそうです。ニューヨークは地上の経済的繁栄を象徴するような、とても忙しない都市ですが、あの教会に一歩、足を踏み入れた途端にすべてが変わります。自分を取り巻くすべてが、気高い神秘を物語るのです―　十字架も、ステンドグラスも、何もかも、外とは全く違う世界です。あの教会に入った瞬間に、私の意識は全く違った次元に引き上げられます。
　しかし教会を出ると、意識はカクンと元に戻ります―　すっかり下がってしまうんです。私たちの日常の意識は、明らかに俗世間の低いレベルにあります。そこまで下がるのを、なんとか阻止できないでしょうか？教会の中で高まった意識を、保ち続けられないでしょうか？　―そのためには、ある種の祈りや瞑想が有効です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　フランスのシャルトル大聖堂も、先生にとっては特別な存在ですね？　人間と宇宙の関わりを表すような。

キャンベル　：
　シャルトル大聖堂に行ったことがある人は、誰もが何か特別な感じを抱いたのではないかと思います。私は、８回ほど観に行ったことがあります。パリに留学していたときに、５回ほど観に行きました。週末を丸々費やして、あの大聖堂の彫刻をひとつひとつ観て回ったものです。
　そうやって何度も入り浸っていたら、大聖堂の管理をしていた老人が、私に声をかけてくれました、「自分と一緒に上に上がって、鐘を鳴らしてみないか」と言うんです、私は喜んで誘いを受けました。

　そこで私たちは大聖堂の塔に登って、巨大なブロンズの鐘のところまでやってきました　―そこには小さなシーソーみたいなものがあります。彼はそのシーソーの片方の端に立ち、私はもう片方の端に立ちました。そこには掴まれるように、横木が渡してあります。彼がひと漕ぎすると、私と彼が交互に上がったり下がったりし始めました。大聖堂のてっぺんで、私の髪は風に煽られます。そして下から「ぐおーん、ぐおーん」、鐘の音が聞こえてきます―　ワクワクしましたねえ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そのシャルトルの大聖堂を見ると、どんなことが分かるんですか？
キャンベル　：
　あの大聖堂は宗教的な、精神的な原理が社会を動かしていた時代に私を連れ戻してくれます。何が社会を動かしているかは、そこで一番高い建物が何かを見れば分かります　―それは時代と共に移り変わっています。
　中世の街では、教会が一番高い建物です。17世紀の都市では、政治の中心となった建物が一番高い建物です。現代の都市では、オフィスビルと住宅が一番高い建物になっています。

　ソルトレイクシティを見ると、それがよく分かります。時代を遡ると、先ず建てられたのは寺院で、街の真ん中に建てられました　―寺院は精神的な中心だったからです。やがて政治のための建物である、州の議事堂が建てられました。そして今、一番大きい建物はオフィスビルです　―経済的活動が、現代の社会を動かしていることの表れです。こんなふうにそれぞれの時代の一番高い建物を見ていくと、西洋文明の歴史が分かります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今日ニューヨークで話題になるのは、誰が一番高いビルを建てるかということですね。ビルの用途はどうあれ、高さが重要です。
キャンベル　：
　ニューヨークにそびえる数々のビルは本当に壮大で、いわば建築技術の勝利です。そしてそれは大都市の主張を体現しています、「ここは経済の中心だ、この巨大な力を見るがいい」といったね。確かに一種の曲芸的な離れ業があの摩天楼を生み出したといえるでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そこから新たな神話が生まれますか？
キャンベル　：
　かも知れません。どんな神話が生まれるかは、予言できません　―今夜どんな夢を見るのか予言できないのと同じです。神話と夢は同じところから生まれます、それはある実感から生まれ、象徴的な形で表されます。
　近い将来において「語る値打ちのある」唯一の神話は、特定の街や、特定の民族について語るものではなく、広く地球全体と、そこに住むすべての人びとについて語る神話です。それが私の思い描く、未来の神話の姿です。

　その神話には、過去の神話が扱ってきたあらゆる事柄が網羅されます。例えば、人間のたどる道についてです。小さな子供から、成長して大人になり、円熟を経て、ついには世を去るということです。あるいは人間は社会とどう関わるのかについて、また社会は、自然や宇宙とどう関わりあうのかについてです。
　そういったことがすべて、将来の神話についても語られなくてはなりません。ただ、そこでいう社会とは、地球全体であるべきです、そうでなくてはならないんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　宇宙から見た地球を、写真で御覧になったことがあると思いますが、あれは素晴らしいですね。地球はとても小さいですが、とても大きいものでもあります。
キャンベル　：
　宇宙から見た地球には、国境も何もありません。あの姿は、これからの新しい神話の象徴かも知れません。地球は、私たちの祝福すべき祖国であり、地球上の人びとと私たちは、共に生きているのです。

製作
　パブリックアフェアーズテレビジョン（アメリカ）

出演
　ジョーゼフ・キャンベル　　滝田祐介
　ビル・モイヤーズ　　小川真司

日本語版スタッフ
　米沢啓子　山本悦子
　中嶋　裕　和田　修　浅見盛康　佐藤良介

（書籍　：今回の両氏の対話を、番組より詳細に掲載しています）
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90368.html

返信
アラガイ熊より:

2015/12/13/ 03:05 3:05 PM

神話の力「第２回　神と人間」（1994年1月放送）

（薄暗い空を多くの雲が「早送り」で流れていく）

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　創世記　第１章　初めに、神は天地を創造された。地は混沌とし、闇は深い淵の面にあった。
キャンベル　：　
　ピマ・インディアンの神話にある「この世の始まり」。
　初めに闇だけがあった―　闇と水だけが。闇は所々で固まり、集まっては別れ、また集まっては別れた。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　（創世記）　神の霊が水の面を動き、やがて神が言われた「光あれ」。
キャンベル　：
　古代インドの哲学書・ウパニシャッド。
　初めにヒトの形をした自我だけがあり、それが見い出すのは己自身だけだった。その最初の言葉は、「これは私だ」であった。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　ジョーゼフ・キャンベルは子供の頃、父親とニューヨークの自然史博物館を訪れたとき、トーテムポールや仮面の前で身動きできなくなりました―　すっかり取り付かれてしまったのです。そして彼はインディアンについて、その神話や伝説について、本という本を読み漁りました。10歳の少年は既に、神話学の世界的権威への道を歩み始めていたのです。
　キャンベルは生涯をかけて、人類が語り継いできた物語や伝説の力を解明しようとしました。特にあらゆる時代や民族に共通するテーマや、その底にある原則を探ろうとしたのです。

　旧約聖書に出てくる神と、インドの伝説に出てくる神には違いがあります。しかし神話の形がどんなに違っていても、次の点では共通しているとキャンベルは言います、　―神話は生きることそのものに対する深い洞察を、人間に与えてくれるものである。そして誕生から死に到るまで、我々が試練をくぐり抜けて歩めるよう導いてくれるものだ―　という点です。
　キャンベルが亡くなる前、２年間にわたり私は彼と何度も対談をしました。そこで神話は、今日の人々とどんな関わりがあるかが話題になりました。

☆　　第２回　神と人間　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話は、いまの我われの生活とどんな関わりがあるんでしょうか？
キャンベル　：
　そうですねえ、先ず私はこう言いましょう　―神話に囚われる必要なんか無いんですよ。あなたの人生なんですから好きなように生きることです―　ってね。
　神話にしろ、どんな事柄にしろ、世間で重要だとか面白いとか言われているからといって、興味を持たなくてはならない訳じゃありません。何か自分に訴えるものがあって関心を持つ、というのが自然だと思います。

　ただ神話は、何か良いキッカケがあれば人を夢中にする力を持っています。古代から伝えられてきた様々な神話は、人生を支え、文明を築き、数千年にわたって宗教を伝えてきました。
　神話は人間の奥深くにあるもの、人間の内なる神秘と関わっています。象徴的な形で表されている場合は、自分で解読しなければいけませんが、一度神話の世界に親しむと、その尽きない魅力に気付きます。さまざまな物語から、深遠で豊かでイキイキとした感情が汲み取れるようになるでしょう―　神話からもう、離れられなくなるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話というのは遠い昔から、人間が何を求め、何に意味を見い出してきたかを物語るものと言っていいんでしょうか？　人生に意味を与えるためや、神秘を理解するためや、自分たちが何者かを探究するため・・・。

キャンベル　：
　人間は皆、人生に意味を求めると言われますが、本当に人間が求めるのは、そういうことではないでしょう。私たちが人生に求めるのは、生きている実感だと思います　―日常の行動や体験が、自分の最も深いところにあるものと共鳴して、生きていることの無上の喜びを感じることです。これが一番重要なことなんです。
　私たちがそういう「生きる喜び」を見い出す上での手がかりを、神話は与えてくれます。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話は手がかり？）　神話は、人間の精神が持ちうる力について手がかりを与えてくれます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「心で何が捉えられるか」ということですか？　心の体験ということですね。人生の意味の追求より、心で何が体験できるかを重視されるわけですね？

キャンベル　：
　人生の体験です。人生の意味を求めるは頭です。
　でも例えば、花に意味を求めてどうなるでしょうか？　釈迦の教えについて、こんな話があります。あるとき釈迦は、弟子たちの前でただ花を一輪、手にしてみせたといいます。すると迦葉(かしょう)という弟子だけが、釈迦の教えを悟ったそうです。

　宇宙にどんな意味があるでしょうか？　あるいは一輪の花にどんな意味があるでしょうか？　それは、そこにあるだけです。それでいいんです。人間の意味も、存在そのものにあります。
　現代の人間は「表面的な価値」を追い求めるのに必死で、本質的な価値を忘れています。いま生きている―　という喜びこそ一番大切なのに、それを忘れているんです。

　人間は、神について考えたがります。神とは、言葉であり思想であり概念です。しかしそれが意味するものは、「あらゆる思考を超越した何か」なんです。究極的な神秘というものは、思考を超えています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　捉えられないんですね？（キャンベル：　そういうことです。）
　定義することも？（キャンベル：　そうです。）
　すると私たちには、いったい何ができるんでしょうか？
キャンベル　：　そうした超越的存在を、私たちは神と呼ぶだけです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ミケランジェロの「天地創造」を最初に御覧になったとき、どうお感じになったか覚えておられますか？
キャンベル　：
　あの絵を初めて見たころにはもう私は、神を人間の姿と結びつけて考えることはなくなっていました。「天地創造」ではヒゲを生やした気難しそうな老人の姿で、神が描かれていますが、あれは超越的存在である神を即物的に捉えているように思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　インドのボンベイ（現ムンバイ）の島にある、８世紀ごろ造られた寺院（下記リンク）についてはいかがですか？
http://www.google.co.jp/search?q=ｴﾚﾌｧﾝﾀ島　石窟寺院&tbm=isch
キャンベル　：
　あれは素晴らしいものです。明るい陽の射す外から、洞窟に一歩足を踏み入れると、いきなり真っ暗です―　一瞬なにも見えなくなります。でも進んでいく内に少しずつ目が慣れて、巨大な像（下記リンク）が見えてくるんです。幅が６ｍ、高さも６ｍほどです。
http://www.google.co.jp/search?q=三面　シヴァ神　ｴﾚﾌｧﾝﾀ&tbm=isch

　中央の顔は永遠を表します、これは神の像なんです。永遠が、輝きとして感じられることを象徴しているんです。超越的存在（中央の顔）以外に目を転ずると、そこには「２つのものが対立する世界」があります。その対立するものが両脇の、男と女の顔で表されているんです。
　（聖書などでは）ひとは知恵の木の実を食べましたが、それは善と悪だけでなく、男と女、正義と不正義、陰と陽などを知ることにつながりました。あらゆるものには対立項があります―　過去と未来、生と死、有と無などといったようにね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　２つの顔が、永遠を表すもの＝つまり神の像　の両脇に刻まれているのは何を意味するんですか？
キャンベル　：
　神の像は中心にあります、両側にある男と女の顔は対立する２つのものを表しますが、神はそういう対立を超越しています。古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスはこう言いました、「神にとっては、あらゆるものが善であり正義だが、人間にとっては正しいものもあれば正しくないものもある」。
　人間は、善と悪、正と不正などが対立する世界で生きている　―あの像でいうと、両側の像の２つの顔の領域に居ます。しかし中心にある、神の視点にも目を向けて生きることです。そうすれば善も悪も、一時的な幻に過ぎないことが分かります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　特に真実を突いている神話というのはありますか？
キャンベル　：
　どの神話もそれぞれ真実を含んでいます。先ほど話した「善と悪」のような対立を超越した神話もありますが、西洋の神話の場合はそういう対立についての洞察に基づいています。キリスト教も「罪と贖い」、「正と不正」のように物事を対立的に捉えます。
　すべては「罪」から始まっています。アダムとイブが楽園から追放されたことが、出発点です。初めエデンの園という夢のような楽園で、アダムとイブはお互いの違いに気付きもせずに生きていました。そこでは神も人も、ほとんど差がありませんでした。
　しかしやがて二人はリンゴを食べ、自分たちが「男と女」という別々のものであるということに気付いた、神と人間が違うということにも気付いた　―つまり対立するものがあることを知ったんです。人間と自然も対立する　というわけです。

　以前、偉大な禅の研究者である鈴木大拙の講演をヨーロッパで聞いたことがあります。そこで彼はキリスト教についてこう言いました、「神が人間と対立し、人間が神と対立する。人間が自然と対立し、自然が人間と対立する。神が自然と対立し、自然が神と対立する。キリスト教というのは、実に奇妙な宗教ですな」（二人で苦笑）。
　アジアなどの神話では、人間が自然と調和するものになっています。しかしキリスト教国の影響を受けている地域（集団）では、世界が善と悪から出来ていると考えられ、人間が世界と調和することができません―　「善」の側に身を置き、（集団的自衛権で）「悪」と戦います。

　キリスト教でもユダヤ教でも聖書を教典とする宗教では、すべてそう考えられてきました　―そこでは自然は人間に対立するものです。ですから自然を敬うような宗教は、下等なもの（！）と見なされます。
　「楽園追放」によって、自然は堕落を誘うものと見なされるようになりました。自然は人間の世界を堕落させるものだというわけです―　自然な行動は、すべて「罪」につながると。なぜなら自然は堕落であり、正すべきものだからです。

　「自然は堕落だ」と捉えるか、それとも「自然そのものが神の表れだ」と捉えるか―　どちらの神話を持つかによって全く違った文明、全く違った生き方が生まれます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　アメリカへの移住者たちが、自然を神聖なものとする先住インディアンの考え方を排斥したのは、それが人間による自然の征服を妨げるからではないでしょうか？

キャンベル　：
　ヨーロッパ人は聖書によって「自然を堕落と見なす考え方」を代々受け継いでいました、それをアメリカに持ち込んだんです―　「神は自然の中にはいない、自然は神ではない」というわけです。神と自然を切り離すこの考え方は、ヒンズー教にも仏教にもないものです。

　日本を訪れたときの体験は、忘れられません―　「エデンの園からの追放」などとは無縁の国です。神道では自然が崇拝されています、「自然の行いに悪しきもの無し」というわけです。すべての自然な衝動は、崇高なもの、美しいものとされます―　罪でも何でもありません。日本には「自然の美しさ」に対する素晴らしい感性があり、自然との協調、調和があります。
　日本庭園では、自然と人の手によるものとが見事に溶け合っています―　私にとって感動的な体験でした。

○　天国も地獄も、あらゆる神々も、私たちの内にある

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ここでちょっとした趣向を試みましょう。ここにいくつかの神話が書いてあります。私が聖書の創世記の一部を読みますから、先生は他の神話でそれに似た部分を読んで下さい。

キャンベル　：　おお、なるほどね。
ﾓｲﾔｰｽﾞ：　創世記　第１章　神は自分をかたどって人を創造された。神の形に創造し、男と女とに創造された。神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、増えよ」。

キャンベル　：　
　こちらは西アフリカのバッサリ族の神話です。
　ウヌンボテは人を作り、その名前を人とした。ウヌンボテはカモシカを作りカモシカと名付けた、ヘビを作りヘビと名付けた。そしてウヌンボテは彼らに言った、「大地はまだ耕されていない。お前たちが座っている土を耕し、平らにしなさい」、そしてあらゆる種類の種を与えて言った、「これを撒きなさい」。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　創世記　第１章　神が作ったものを全て見たところ、それは非常に良かった。

キャンベル　：
　ではインドのウパニシャッドから。　
　神は悟った、「まさしく私こそ創造だ。私自身からそれを生み出したのだから」。こうして神は創造そのものになった。このことを知る者は創造者となる。―
　
　・・・神が創造そのもので、自分が創造されたものだと知ったとき、ひとは創造の原理と一体になります。つまり人間の中には、神の力が存在するんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　世界の創造について説く物語は、こんなふうにイロイロあるわけですが、ひとはそこに何を求めているんでしょうか？
キャンベル　：
　ひとが生きていく上での、一つの指針を求めているのだと思います。それは世界を形づくり、そして人間をその中に形づくった超越的存在に対し、目を開かせてくれるようなもののことです。それを人間は求めているのであり、魂が願っているのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまりこういうことですか、私たちはあらゆるものに潜む神秘を見つけようとしている。
キャンベル　：
　そうです、そういう神秘を世界の中に、私たちの身近な所に見い出すことを願っています。どうしたら神聖なものを見い出すことができるのかを知りたいと思っているんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　自分の中に見い出す？）　そうです。
　インドには両手を合わせる挨拶がありますが、意味は分かりますか？　これは祈りを表すものです。客を迎えるとき、こうやって合掌します。それはその客の中にいる神に、祈りを捧げることなんです。インドの人たちは、神聖なものを絶えず意識しています。家にやってきた客の中に、神がいると感じて合掌で迎えるんです。単に誰か来たから挨拶をするということではなく、そこに神の存在を見ているんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかし世界の始まりについて人びとが語り継いできたのは、もっとずっと単純な理由からではないかと思うのですが。この世界を誰が、ナゼ、どうやって造ったのかという疑問を解こうとして、物語が生まれたのでは無いのでしょうか？

キャンベル　：
　そういう疑問に答えるのが、世界の創造の物語なのではありません。それは全世界の中に創造主がいることを気付かせてくれるものです。さっき読んだウパニシャッドの物語に、「神は創造そのものになった」とありましたね。神が創造そのもの―　つまり創造主で、ひとが創造物であることを知ったとき、ひとは自分の中にも周りの人の中にも、神が居ることに気付きます。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神と一体なわけですね？）　そういうことです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話によく出てくる「禁断の木の実」というものについて、お聞きしたいのですが。
キャンベル　：
　「禁じられたもの」という共通のモチーフがあります。「青ひげ」にも「あの部屋は開けるな」という話が出てきます。人間は、そういう言いつけには決まって背いてしまうものです。
　旧約聖書では、神は「知恵の木の実」を食べることを禁じます。ただ神は、すべてお見通しだったと思いますよ、人間がそれを食べてしまうことをね。でもそうすることで初めて、人間は人間として歩み始めます。人間の生活は、そこから始まるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　昔の物語では人間は罪を犯すと、他のものに責任を転嫁する傾向がありますね。また創世記を読みますから、先生は西アフリカのバッサリ族の神話を読んで下さい。
　神は言われた、「食べるなと言われた木の実を食べたのか」。男は答えた、「私と一緒にして下さったあの女が、木から採ってくれたので、食べたのです」。神は女に言われた、「なんということをしたのだ」。女は答えた、「ヘビが私を騙したのです」。
　・・・責任転嫁は、随分むかしに始まったわけですね。ではバッサリの神話をどうぞ。（キャンベル：　これもヘビが悪者にされてる。）

キャンベル　：
　ある日ヘビが言った、「私たちも木の実を食べよう、お腹を空かせていることはない」。カモシカが言った、「でも私たちは木の実について何も知らない」。やがて人間の夫婦が、その実を採って食べた。ウヌンボテが天から降りてきて言った、「誰だ、食べたのは？」。二人は「私たちです」と答えた。「誰が食べて良いと言った？」と訊かれ、二人は答えた、「ヘビです」。
　・・・ヘビが気の毒だ（笑）。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　全くです、登場人物たちはみな、自分の行動の原因を誰かに押し付けているわけですが、この点はどうお考えになりますか？
キャンベル　：
　肝心なのは、それをヘビに押し付けているという点です。この２つの物語では、ヘビは「過去の殻を脱ぎ捨てて生き続けるもの」を象徴しています―　生命力のシンボルなんです。ヘビは脱皮によって古い皮を捨てて生き続けます、死を投げ捨てて生まれ変わるんです―　そこには生命の持つ力が表れています。
　多くの社会では、ヘビはプラスのイメージで捉えられています。猛毒を持ったヘビでもそうで、例えばインドではコブラは神聖な動物です。時間が支配するこの世界で、ヘビは「死を越えた生命の力」を表すんです。以前、すごい映像を見たことがあります。（下記リンク）
https://youtu.be/FLhaqN4gkmM

　ビルマ（現ミャンマー）の女性僧侶が、人びとに雨をもたらそうとして、コブラを穴の中から呼び出します。そしてなんと彼女は、コブラの頭に３回キスをするんです。彼らにとってコブラは、雨をもたらし、命をもたらしてくれる神聖なものです―　決して悪者ではありません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　でもキリスト教では、ヘビは悪者ですね。
キャンベル　：
　キリスト教的な考え方では、生命を否定的に考えているからです。生命は悪であり　―自然な衝動はすべて罪深く、洗礼や割礼によってのみ救われる、というわけです。これが私たちが受け継いできたキリスト教的考え方です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　女性も「悪へ導くもの」として、ずいぶん悪者にされてきましたね。神話では、女性が「堕落を呼ぶもの」として描かれていたりします。
キャンベル　：
　無理もありません、女性は生命を意味するからです。人間は女性によってこの世に生まれます―　対立と苦難に満ちたこの世に人間を投げ込むのは女性だ、というわけです。しかし生きることに苦痛が伴うからといって、それを拒否したり「こんなものは無いほうが良かった」といったりするのは、非常に子供じみていると思います。実はショーペンハウアーも、そういうことを言っている訳ですがね。
　彼は、その著作の中で「生命は無いほうが良かったものである」と書いています―　生命というものは実に恐ろしいものである、というのです、なぜなら生きるということは、他のものを殺して食べるということを本質的に含んでいるからです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまり人生そのものが、苦しみに満ちているわけですね。安らかなのは、死後だけ。
キャンベル　：
　でもいくらこの世が辛くても、私は世界について、いつも楽観的な見方をしています。世界は素晴らしいですよ、あるがままでね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そう考えると、この世の悪や不正を容認することにはなりませんか？
キャンベル　：　自分も悪の一部なんです、自分も誰かに害を及ぼしているんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その辺をもう少し、ご説明願えませんか？
キャンベル　：
　以前インドに行ったときに、私はスリ・クリシュナ・メノンという有名な教師に会いました。彼はインド南部のトリバンドラムに住んでいたので、そこに行ったんです　―そこで彼と間近に対面することを、特別に許されました。
　彼は先ず私に「質問はありますか」と尋ねました　―インドでは常に「教師が問いに対して答える」という形をとります。自分から教えるのではなく、質問に答えるだけなんです。

　そこで私はこう尋ねました、「ヒンズー教の思想では全宇宙が神聖なものであり、神の表れであるとされています。だとすれば、この世界のものはどんなものでも否定できないわけでしょうか？　残酷さ、愚かさ、卑しさ、無分別をも肯定しなければならないのでしょうか？」。すると彼は言いました、「あなたと私のために、すべてを肯定しなければなりません」。
　彼の弟子だったことがある、私の友人たちから後日聞いた話では彼らも初め、私と同じ質問を彼にしたんだそうです。私はその友人たちと「世界の全てを肯定すること」について、楽しく話を交わしました。
　つまり「誰にも裁く権利は無い」ということです、それはキリストの教えの一つでもあると思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　なるほど、古典的なキリスト教の教義では「この世は忌むべきもの」で、人生は死後に天国で償われるものだったりします。でも嫌なものも全て肯定し、この世を肯定すれば、現在の中に「永遠」が実現されるわけですね。

キャンベル　：
　その通りです。永遠というのは、あの世にあるものでもなければ、時間に支配されるものでもありません。
　永遠はまさに、今ここに、時間から切り離されて存在するものなんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今ここに？）　そうです。もし、今ここで、永遠を見い出せなければドコにも見い出せないでしょう　―「今ここで」が肝心です、

　仏教には、菩薩というすばらしい存在があります。菩薩とは、悟りを目指すものであり、すでに仏になり得る境地に達している存在です。菩薩は、この世がいかに悲惨なところであるか知りつつも、この世に留まっています。世の人びとを救済するために、敢えて仏にならず、菩薩のままでいるんです。
　釈迦は先ずこう説いています、「生きることの全ては苦しみである」。確かにその通りです、人生は苦しく哀れで虚しいものです。命には限りがあり、失われていくばかりです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　悲観的な見方ですね）　私が言いたいのは、それでも全てを肯定すべきだということです　―この世を、あるがままね。

　この世は、今あるままで素晴らしいんです。ジェームス・ジョイスはこんな文章を遺しています、「私は歴史という悪夢から目覚めたい」。目覚めるためには、恐れないことが必要なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ところで天国というものは、私たちの内にあるんでしょうか？
キャンベル　：
　天国も地獄も、あらゆる神々も私たちの内にあります。これは紀元前９世紀のインドの哲学書ウパニシャッドに、既に表されていた考え方です。あらゆる神…、あらゆる天国、あらゆる世界が、私たちの内に存在しています。
　それらは夢が拡大されたものです。夢は、肉体のイロイロな器官の衝突しあうエネルギーが、イメージとして表れたものです。神話も、夢と同様のものです。神話というのは、肉体の各器官の衝突しあうエネルギーを象徴的に、表したものなんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　夢を見るのは、神話の海で釣りをするようなものですね。
キャンベル　：
　自分の奥へ、奥へと進んで行くんです―　そして内なる深淵を支配するものに辿りつきます。
　ポリネシアには「鯨の上に立って、雑魚を獲る」という言い方があります。鯨は「内なる深淵を支配するもの」のことです。ひとは自分の外側でコマゴマとした問題、つまり雑魚を目にします。しかし内側を見れば、すべての根は自分の内にあることが分かります。鯨の上に立ちながら、鯨に支配されているんです。

○　神話は私たちを、神秘の領域に導く　

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　
　未開社会は、白人文明によって破壊され、バラバラになり病んでしまいました。私たちの社会でも神話が失われつつあるせいで、同じことが起こっているのではないでしょうか？（キャンベル：　全くその通りです。）　保守的な人たちが「昔の宗教に戻れ」と主張するのは、そのせいでしょうね？（キャンベル：　そうです。）　気持ちは分かりますがね。
　子供のころの私は、揺るぎない星のような信仰を持っていました。それは永遠の輝きで私に安らぎを与え、確かな地平線を与えてくれましたし、自分が優しく正しい父親に見守られていることを教えてくれました。でもそういう信仰は今や、科学によって一掃されてしまいました。昔のような信仰も神話も持たない今の子供たちは、どうなるんでしょうか？

キャンベル　：
　新聞を一目見るだけで分かります―　混乱あるのみです。神話というのは、人生についての指針を与えてくれるものです―　人生の手本を示してくれます。ただしその手本は、私たちが生きている今この時代に相応しいものでなければいけません。
　時代は変化しています、急激に変化しています―　５０年前には当たり前だったことが、今では通用しないこともあります。昔の美徳が、今は悪徳とされていたり、昔は敵視されたものが、今は受け入れられたりしています。ですから昔の宗教は、今の時代の現実にはそぐわないでしょう。「昔の宗教に戻れ」と主張するのは、滑稽だと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人間同士を、ふたたび一つに結びつけてくれるような知恵は存在しうるでしょうか？私たちは人生の新たな手本を見い出せるでしょうか？　可能ですか？
キャンベル　：
　もちろん、その知恵は宗教の中に潜んでいます。全ての宗教は、その時代時代において真実でした。そこから時間の推移で変化する要素を除けば、普遍の真理が残ります。古い宗教から、新しい知恵が得られるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　昔の物語に含まれていたような宇宙の真理を表すものが、現代のメディアから新たに生まれるということはあるでしょうか？
キャンベル　：
　そうですねえ・・・、例えば映画の「スターウォーズ」は神話的な要素を持っています。あの映画は「悪の帝国に象徴される機械文明」と人間との関わりについて考えさせてくれるんです―　機械は人間を崩壊させたりはしないか、あるいは人間が心ではなく、機械によって動かされていいのかといった問題をね。

☆ダース・米ダー　：　ルーク、このマスクを外してくれ。
☆ルーク　：　　死んでしまうよ。

キャンベル　：
　「スターウォーズ・ジェダイの帰還」でダース・米ダーのマスクを外すシーンがあります。ダース・米ダーは、帝国という機械文明の奴隷でした―　巨大なシステムの部品に過ぎなかったのです。マスクの下にはロボットのような、虫のような生気の無い顔がありました―　人間としての顔を失ってしまったんです。
　ジョージ・ルーカスが作り上げたあのシーンは・・・素晴らしいと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　機械というのは、もともと人間が、世界を自分の望む形に変えようとして生み出したものですね。
キャンベル　：
　最初に作られた機械は、道具です　―つまり石を砕いて、使えるようにしたもののことです。それ以来、人間は機械を使って自然を支配しようとしてきました。でも次第に機械が人間を支配し始めています。　私自身、目下コンピューターに振り回されていますよ。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　コンピューターに？）　数ヶ月前に１台購入したんですよ。
　どうもコンピューターには人格があるように思えてしまいましてね、話しかければ答えてくれるし、時には気まぐれな行動を取ったりする―　とても機械とは思えません、生きているみたいです。あれを神格化してしまいそうですよ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかし機械が私たちのための、新たな神話を作り出したりするようなことがあるでしょうか？
キャンベル　：
　いや、機械が神話を生み出すということはないでしょう。もっとも、機械についてもあてはまる神話があってしかるべきではあります。昔から使われている道具であれば、神話の世界に含まれているというわけですから。
　しかし機械についての真理まで含む神話は、存在しません。神話が永続的な命を持つことは不可能です―　時代は変化するからです。また私たちが生きているこの時代は、あまりにも変化が速すぎて、新しい神話を生み出すことはできないでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話がなくなったら、どうなりますか？
キャンベル　：
　私たちひとりひとりが、自分で神話的なものを見つけなくてはいけなくなりますね。神話はイロイロな働きを持っています。神話が無くなれば、それらも失われてしまいます。神話の第１の働きは、私たちを神秘の領域に導いてくれることです―　あらゆるものの奥にある神秘に気付かせてくれます。
　それに気付くと宇宙は、私たちにとってひとつの神聖な絵画のようになります―　それを通じて超越的な神秘に、いつも語りかけられるようになるんです。これが２つ目の働きです。

　３つ目の働きは社会的なもので、ある社会を成立させたり、維持したりすることです―　それは社会生活に於ける、倫理的な法を与えることです。例えばユダヤ教の経典には、どんな服装をすべきか、お互いにどう振舞うべきかといった定めが、こと細かに書かれています。
　そして神話の４つ目の働きは、教育的な機能です。神話はどんな状況にあっても、人間らしく生きることを私たちに教えてくれます。

○　いかなる人生を選んでも、真理を実現することはできる

　古代インドの哲学書ウパニシャッドに、インドラという神の素晴らしい物語があります。ヒンズー教の神々には、宇宙を創造したブラフマン、それを維持するビシュヌなどがいて、インドラは雷を司る神です。

　―あるとき恐ろしい怪物が、地上の水を全て封じ込めてしまい、日照り続きになりました。ひどい干ばつで、世界中がとても苦しんだんです。そのときインドラは自分が稲妻の箱を持っていたことを思い出し、その稲妻を投げつけて怪物を退治することができました。すると水がドンドン流れ出し、世界は救われました。インドラは思いました、「私はなんて偉大なんだ」。
　そこでインドラは世界の中心にある山に登って、そこに新しい都市を築くことにしました、「偉大な自分に相応しい宮殿を建てよう」と決めたんです。インドラは神々のために働いていた大工の棟梁を呼んで、宮殿造りを命じました。棟梁は、たちまち素晴らしい宮殿を造り上げました。でもインドラは見に来るたびに、「もっと大きくしろ」「もっと豪華にしろ」と要求します。そこで棟梁は言いました、「あなた様も私も不老不死ですし、あなた様の願望にはキリがありません。これでは私は永遠に囚われの身です」。

　棟梁は創造主である神ブラフマンのもとに行き、苦情を申し立てることにします。ブラフマンは、聖なる力と聖なる恩寵のシンボルである蓮の花に座っていました―　その蓮はビシュヌのヘソから生えています。ビシュヌは眠れる神で、彼の夢が宇宙なんです。棟梁はブラフマンのもとにやってくると、ことの一部始終を訴えました。するとブラフマンは言いました、「私がなんとかしよう」。
　次の朝、まだ完成していないインドラの宮殿の前に、青黒い肌の美しい若者が現れました。その周りを沢山の子供たちが取り囲んで、彼の美しさを称えていました。その若者がインドラの玉座の前へやってくると、王であり神であるインドラはこう言いました、「よく来た。だが何のために、この宮殿を訪ねたのかね？」。すると若者は地に轟く雷のような声で答えました、「あなたが、これまでのどのインドラよりも立派な宮殿を建てていると聞いたものですから。ぐるりと見せていただきましたが、確かにその通りのようです。これまでのどのインドラも、これほどの宮殿は建てたことがありません」。インドラは言いました、「これまでのインドラ？お前は一体なにを言っているのだ？」。

　若者は答えました、「インドラは、あなた以外にもいたのです。これまで大勢のインドラが現れては消え、現れては消えていきました。いいですか、ビシュヌは宇宙の池で眠り、そのヘソから蓮の花が生えている。その花の上に創造主ブラフマンが座っている。ブラフマンが目を開けると一つの世界が生まれ、それをインドラが治めるが、ブラフマンが目を閉じると、その世界は消える。目を開くと世界が生まれ、閉じると世界は消える。そしてブラフマンの命は43万2000年で終ります―　すると蓮もしぼみ、新しい蓮が花を開き、新しいブラフマンが生まれます…。
　天空には無数の銀河が散らばっています。その星のひとつひとつで蓮の上にブラフマンが座り、目を開けたり閉じたりする度にインドラが生まれては消えるのです。たとえ海にある水滴の数や、浜辺の砂粒の数を数えられたとしても、ブラフマンの数は数え切れません。ましてやインドラの数など、想像もつきません」。

　若者がそう話していると、宮殿の床を蟻の群れが整然と列をなして横切っていきます　―それを見て若者が声を立てて笑いました。インドラが腹を立て、「なぜ笑う？」と尋ねると若者は言いました、「気分を害されたくなかったら、訳は聞かないことです」。インドラはそれでも尋ねました、「頼むから教えてくれ」。すると若者は言いました、「あの蟻は、これまでのインドラたちです。彼らは長い時間をかけて魂の一番低い状態から、最高のところまで登りつめました。しかし稲妻で怪物を退治して、『自分はなんて偉大なんだ』と思ったら、また低いところへ落ちてしまったんです」。
　インドラは大変ショックを受けて、すっかり幻から覚めました―　もう宮殿を造ることは止めにして、棟梁にそう命じました。棟梁は望みどおり、仕事から解放されたわけです。インドラは旅に出て、行者になろうと決心しました―　ビシュヌの蓮の花の下でひたすら瞑想にふけるツモリでした。

　ところでインドラには、インドラニという美しい妃がいました。インドラニは、インドラの決心を聞くと神々の祭司のもとへ行き、こう話しました、「インドラが宮殿を出て、行者になるというのです」。すると祭司は答えました、「では一緒に宮殿に行きましょう、私が話してあげます」。祭司は宮殿に行き、インドラの玉座の前でこう言いました、「あなたは今、王の座に就いています、神々の王になっています。あなたはブラフマンの神秘を、この世において体現しているのです。これは大変な特権です、そのことを感謝して受け入れ、名誉に思い、自分の本来の姿を忘れずに人生を歩むことです」。
　その教えに従ってインドラは、行者になるという考えを捨てました。自分の人生の中で、ブラフマンという宇宙の最高原理の、いわばシンボルとして永遠を体現できることを悟ったのです。―

　私たちひとりひとりも、ある意味ではインドラです。どんな人生を選んでも、真理を実現することはできます―　森に入って瞑想する人生でもいい、俗世に留まって仕事一筋に生きてもいいし、家族との愛に満ちた時間を尊重してもいい。どんな生き方でも構わないんです、とにかくこのインドラの物語は、とても素晴らしい神話だと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私たちに真理が掴めるんでしょうか？
キャンベル　：
　どんな人でも、深みのある体験をすることはできます―　本当の自分、本当の至福に触れるような瞬間を持つことは可能です。宗教家たちは「私たちは天国に行くまで、つまり死ぬまで、真にそういう体験をすることはできない」と言っています。でも私は、生きている間でも、それは可能だと信じています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　至福はここにある？
キャンベル　：
　天国では、神を目にすることはできても、自分自身の体験は得られないでしょう―　そういう所ではありません。深い体験が得られるのは、この世においてなんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今ここで？
キャンベル　：　その通りです。

返信
アラガイ熊より:

2015/12/20/ 02:05 2:05 PM

　…やはり封切りには間に合わなかったので、更なるペースダウンを御覚悟ください。

神話の力「第３回　古代の語りべ」（1994年1月放送）

（アルタミラの壁画→　ニューヨークの雑踏→　宇宙飛行士の船外活動）

キャンベル　：
　「見えざる力」の使者である動物たちが、原始時代のように人間を教え導くことは、もうなくなった。
　熊もライオンも象も、動物園のオリの中にいる。もはや人間は、未開の原野には住んでいない。我われを取り巻くのは、野生の動物ではなく人間たちであり、人間はモノや居場所を求め、地球上で互いに争っている。もはや我われは、旧石器時代の狩人の世界には住んでいない。

　しかし我われの肉体と精神は、古代の暮らしに負うところが大きい。太古の動物たちの記憶は、我われの中に眠っているに違いない。それは我われが大自然に足を踏み入れたとき、雷鳴を聞いたとき、呼び覚まされる。壁画が残る洞窟を訪れたとき、懐かしさと共に甦る。
　太古のシャーマンたちが、トランス状態で体験した「内なる暗闇」は、我われの内にもあるに違いない。我われは眠りのたびに、そこを訪れているのだ。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　原始時代の人が残した見事な洞窟の壁画を見るとき、私たちは彼らが食料となる動物たちに対し、信仰心と言えるような気持ちを抱いていたことに気付きます。狩人たちは、動物たちが死後に行くと思われた超自然的世界について語り合ったことでしょう―　そして仕留めた動物たちの魂に対し償いの儀式を行い、再び自分たちのために犠牲になってくれるよう祈ったのです。
　ジョーゼフ・キャンベルは、このような神話や儀式の研究に生涯を捧げました。彼にとって神話は、単に楽しみのために焚き火のそばで語られてきた物語ではありません。神話は人間の魂を導いてくれる道しるべだと、彼は考えていたのです。

　キャンベルが亡くなる前、私は彼と幾度も対談をしましたが今回は、原始の人びとと彼らが語った物語についてです。太古の人びとと同じように、私たちもあの世について考え、儀式を行います。彼らの物語は、今も私たちの内にあるのです。

☆　　第３回　古代の語りべ　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話は私たちの精神に、どんな影響を与えますか？
キャンベル　：
　そうですね・・・古代の神話は私たちの心というか、精神と肉体を調和させるために作られています―　そうなることを助けてくれるんです。
　そう、調和させるんです。精神は肉体が望まない方向へ、プラプラ勝手にさ迷って行ったりします。神話や儀式は、精神を肉体と調和させる手段なんです　―そして人間の生き方を、自然の定めに従わせるための手段でもあります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　古代の物語は、私たちの中にも生きているわけでしょうか？
キャンベル　：
　そうです、ある意味ではね。人間が成長する過程は、昔も今も変わりはないからです。昔も今も、子供は規律と服従の中で暮らしていて、一人では生きられません。そして成長していく中で、それらの課題を乗り越え、自分に責任を持って自立して生きていくようになります。
　昔も今も人間は、子供から成長して青年期へ、さらに成熟して壮年期を迎えます―　そして少しずつ衰えが始まり、言うなれば「人生の秋」を経て、年老い、遂には一生を終えます。
　こういった人生の移り変わりの中で自然の命じるままに、自然の定めに従って生きることを、神話は私たちに教えてくれるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私には神話は、見知らぬ海岸から流れてきたビンに入ったメッセージのように思えます。（キャンベル：　先に、そこを訪れた人からのね。）
　神話は先人たちの辿った道を示している、私たちが取るべき道を教えてくれます。

キャンベル　：
　そしてその道の美しさも教えてくれます。私はそろそろ人生の終わりに近づいていますが、ここまで来られたのは神話のおかげだと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話に助けられたわけですか？例えば、どんな時に？
キャンベル　：
　例えば、大学教授の職を退いたときです。全く新しい人生を始めなくてはいけないと思ったんですが、そのときインドの伝統が参考になりました。インドには人生の節目節目に衣服をすっかり変えて、名前まで変えるという伝統があります―　それに倣って私も人生に対する考え方をすっかり変えてみようと思ったんです。
　「何かを成し遂げよう」という姿勢はもう捨てて、毎日を存分に楽しむことにしました。人生の素晴らしさを味わいながら、リラックスして生きるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「人生の最後にくぐる暗い門」についてどう思われますか？
キャンベル　：
　それは何の問題にもなりません。肉体が衰え始める中年の時期に問題となるのは、自分というものを「衰えゆく肉体」と見なすのではなく、ひとつの意識と見なすことです　―肉体は、意識の入れ物に過ぎないからです。私は、これを神話から教わりました。
　「自分は何なのか」を考えてみることです―　光の入れ物である電球なのか、それとも光そのものなのかをね。この体は、意識の入れ物に過ぎません。自分を意識として捉えることができれば、体が衰えることを冷静に見ていられます―　古い車が壊れていくのを見るようにね。いつかそうなるのは分かっていたことで、驚くことも怖れることもありません。しかし肉体が滅んでも、意識は残ります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話や物語が、意識と肉体についてそう教えるんですか？
キャンベル　：
　神話はいつも自分を、肉体ではなく意識として捉えることを教えてくれます。これは次のようにも理解できます、例えば自分を、自分の内なるキリストと同一のものと見なすことです―　その内なるキリストは不死身です、死を乗り越えて復活します。
　インドのシヴァ神でも構いません、自分をシヴァだと思うんです―　これはヨガの行者の瞑想法の一つです。しかしキリストやシヴァ神のイメージなど、無くても構いません。ただ心をリラックスさせて、自分が意識だと考えればいいんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「死のイメージ」が神話の始まりだと言っておられますね、どういう意味ですか？
キャンベル　：
　それは「ごく初期の神話」といえるものが、死と関連しているということです―　死者を墓に埋葬するということとね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは当時の人間が、仲間の死を目にしたとき、死について考えたということでしょうか？
キャンベル　：
　そうでしょうねえ、想像するしかないですが　―自分の目の前に生きた温かい人間がいて、自分と話していた。でも今は、その人は横たわったままで冷たくなり、腐敗し始めている。何かがなくなってしまった、一体ドコへ行ったんだ？―　そう考えたんでしょうねえ。
　もちろん動物も、仲間の死を目にすることはありますが、彼らが死について深く考えていたことを示す証拠はありません。初めて墓を作ったのは、ネアンデルタール人です。それより前の時代の人類は、死んだ仲間をただ捨てていました。ネアンデルタール人になって初めて、死者を埋葬するようになったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そういう埋葬地を訪ねられたことは？
キャンベル　：　ええ、フランスのヌスティエ洞窟に行きました―　最も古い埋葬地の一つです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　死者と共に埋められたものも、何か御覧になりましたか？
キャンベル　：
　ええ、武器などの副葬品や、生け贄が一緒に埋められていました。それはネアンデルタール人が、この世のあとにも命が続くと考えていたからだと思われます。
　そこで少年の骨を見ましたが、まるで眠りについているように横たえられていて、その横には見事な斧が置かれていました。私たちは祭壇の跡も見ました―　狩りで殺した動物たちを祀った祭壇です。そういう祭壇は、アルプス地方のかなり高い所にある洞窟で多く見つかっています。

　ひとつ興味深いことがあります―　熊のあごの骨と長い骨を組み合わせたものが見つかっているんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは何を意味するんですか？）　埋葬です。人間が死後も生き続けるなら、殺した動物たちもそうあって欲しいという気持ちの表れと、動物への償いです。

○　狩猟は　単に動物を殺すことではなく、儀式である

　狩猟の神話では、狩猟は動物と人間との一種の契約のようなものだと言えます―いわば、両者の約束事です。動物たちは普通、自ら進んで人間に命を捧げると見なされます。動物は、自分の命は肉体を超越し、復活の儀式によって大地や母親のもとに帰ることを知っていて、進んで犠牲になるという訳です。

　原始時代の主な儀式や神々は、最も重要な狩猟の獲物と結び付いていました。例えばアメリカの大平原に住んでいたインディアンにとっては、主な獲物はバッファローでした。北西部の（太平洋）沿岸地方ではサケで、大きな祭りはサケが川を上ってくることと関係がありました。南アフリカでは、例えばイランドという大きなレイヨウの一種が主な獲物でした、（つまり）食料をもたらすものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人間と動物は、ある種の絆で結ばれていた訳ですね―　一方が、もう一方の命を奪うという意味での絆ですが…。（キャンベル：　生きるとはそういうことです。）　それは原始時代の人びとを悩ませたでしょうか？　
キャンベル　：
　もちろんです、だから儀式が執り行われたんです―　動物たちをなだめ、彼らに感謝する儀式です。興味深いのは、狩人が動物と一体化することです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しとめた動物と？）そうです。
　狩人は動物をしとめた後、ある種の儀式を行います―　それにより死んだ動物と、神秘的なつながりを持つんです、やがては自分の血となり肉となってくれる動物と一体になります。狩猟は単に動物を殺すことではなく、それ以上の意味を持っています。

　狩猟によって人間は、動物たちが命を捧げてくれていることを認識し、人間が動物のおかげで生きていることを認識します。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　すると狩猟は何なのでしょう？）　儀式です、狩猟は儀式なんですよ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　食料である動物たちの復活を望むわけですね。
キャンベル　：
　それは殺された動物に対する敬意を表すものでもあります。その辺りが私が大変、興味深いところです―　それは敬意以上のものがあります。動物は、いわば「神の使者」なんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　狩人は「神の使者」を殺すわけですか？）　神を殺すんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　すると狩猟は罪になるんでしょうか？
キャンベル　：
　その罪は、神話によって拭い去られます。狩猟を一個人の行いではなく、自然のさだめ（宿命）に従った仕事と捉えるんです。私たちは、動物を人間より下等な生き物と捉えがちです、しかし原始時代の人びとはそうではありませんでした。動物は多くの点で、人間より優れていて、人間が持ちえない力を持っていると彼らは考えていました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そしてある種の動物を擬人化しますね、バッファローや、ワシやカラスや…
キャンベル　：
　その通りです。私は1932年にアメリカ北西部の沿岸地方を旅しましたが、当時あの地方のインディアンは、まだトーテムポールを作っていて、村にはまだ新しいトーテムポールが建っていました。トーテムポールにはカラスやワシなど、神話に出てくる動物たちが彫られています。それぞれの動物の特徴がよく表わされていました。そして動物に対する深い知識や、動物との身近で友好的な関係がうかがえました。
　動物は、神話の成り立ちに影響を与えます―　大平原のインディアンの場合は、バッファローが大きな役割を果たしました。インディアンの神話では煙草とパイプの儀式も、バッファローが人間にもたらしたとされています。人間のほうがバッファローに忠告を求め、バッファローが人生の指針を人間に与えてくれるのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　バッファローの嫁とりの話がありますね。
キャンベル　：
　ええ、ブラックフット・インディアンの神話です。彼らのバッファローダンスの儀式は、バッファローが人間の暮らしを助けてくれるよう祈るものです―　この踊りもまたバッファローがインディアンに伝えたとされます。
　ブラックフット・インディアンは人数が多く、暮らしていくにはバッファローの肉が必要でした。冬に備えて肉を確保する１つの手段は、バッファローの群れを崖の上に追い詰めて転落させることでした。

　―むかしむかしブラックフットのある一族が、バッファローを崖から落とすことができずに困っていました。バッファローは崖の近くまでは行くんですが、そこで向きを変えてしまうんです―　冬を越すための肉は獲れそうにありませんでした。
　ある朝早く、一人の娘が水を汲みに出かけ、ふと崖の上を見ると、そこにバッファローの群れがいました。娘は群れに向かって言いました、「もし飛び降りてくれたら、あなたたちの誰かと結婚します」。するとなんとバッファローがみんな飛び降り始めました。さらに驚いたことに、年を取ったバッファロー　―これは群れの中のシャーマンでしたが―　それが娘のそばへ来て、「一緒に行こう」と言うんです。

　娘が嫌がるとバッファローは言います、「お前の望みどおり、私の仲間たちは飛び降りて死んだではないか。さあ行こう」。娘がいないことに気付いた家族は、あちこち捜し回りました。そして父親は、娘がバッファローと一緒であることを知ります―　足跡で分かったんです。
　父親は娘を連れ戻そうと、弓矢などを携えて草原へ出かけます―　だいぶ歩いた後、一休みしようと思って「バッファローのくぼみ」と呼ばれる場所へ行きました。そこはバッファローが好んでやって来て、転げ回ったり虫をこすり落としたりするところでした。

　そこで父親が考え込んでいると、カササギがやってきます。カササギは美しく利口な鳥で、たシャーマンのような力を持っています。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　魔術師のような？）　そうです。父親はカササギに言いました、「私の娘がバッファローと一緒にどこかに行ってしまった。どこにいるのか捜してくれないか？」。するとカササギは、「ここから少し離れたところに、娘さんとバッファローがいますよ」。父親は言いました、「私がここにいることを娘に伝えておくれ」。
　カササギは飛んで行き、バッファローと一緒にいる娘を見つけます。バッファローたちは眠っていました。カササギは娘に近づいて言います、「お父さんが、くぼみで待っていますよ」。娘は驚きます、「大変だわ、バッファローに見つかったら殺されるというのに。お父さんには待っていてと伝えて。あとで行くから。」

　娘のそばにいたバッファローの夫が目を覚まし、頭から角を外すと、「くぼみへ行って、これに水を汲んできてくれ」と言います。娘はくぼみで父親に会いますが、家に戻ることを拒みます、「そんなことをしたら、群れが追いかけてくるわ。何とかするから、いまは帰らせて」。娘は水を持って、群れのもとへ戻りました。
　バッファローの夫は水に鼻を近づけて言います、「人間の血の臭いがする」。娘は「まさか」と言いますが、夫は耳を貸しません。彼が一声叫ぶと群れが全員起き上がり、バッファローダンスを始めます。そしてくぼみに行き、父親を踏みつけて殺してしまいます。

　彼の体は散り散りになり、亡くなってしまいます。娘は泣きました。バッファローの夫が「なぜ泣くのか」と訊くと、娘は「だってお父さんなのよ」。すると夫は「そうか。しかし我われを見てみろ、我われの子供や妻や親は、あの崖の下で死んでいるではないか」。でも彼は娘に同情したのかこう言いました、「もしお前が父親を生き返らせることができたら、お前を家に帰してやろう」。
　娘はカササギに「お父さんの体のかけらを見つけてきて」と頼みます。カササギが小さな骨を見つけてくると、娘はそれを地面に置き、上に毛布をかけると魔法の歌を歌います―　それは強い力を持った復活の歌です。すると、なんと毛布の下に男の姿が現れます―　確かに娘の父親です、でもまだ息をしていません。さらに娘が歌い続けると、ついに父親は立ち上がります。

　バッファローたちは驚いて言いました、「我われが死んだときも、生き返らせてくれ。お前にバッファローダンスを教えるから、我われを殺したときは、そのダンスを踊り、そして歌を歌ってくれ。そうすればみんな甦るだろう」。

　・・・つまり歌と踊りの儀式を行うことで、時間を超越した次元に到達するんです―　そこでは生と死の間を往き来することができます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　この物語は死や復活について考えさせてくれますね。人間の場合だけでなく（キャンベル：　動物の場合もね）
　これはバッファローへの崇拝を表す物語ですね。（キャンベル：　その通りです）
　しかし、その崇拝すべきバッファローを白人たちは虐殺しましたね。
　
キャンベル　：
　それは神聖なものを冒涜する行為でした。19世紀後半、白人は凄まじい勢いでバッファロー狩り（や鯨漁）をしました。私が子供の頃も、バッファローの皮がそこら中にありました―　ソリに乗りに行くとき、必ず持って行ったものです。
　インディアンにとって神聖な動物であったバッファローも、白人は手当たり次第に撃ち殺しました　―売り物にする皮だけ（鯨は油だけ）を取って、死骸は放置し腐るに任せたのです―　これは冒涜以外の何ものでもありません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　バッファローが虐殺された時期は、アメリカの歴史の中でも重大な意味を持ちますね？　それはインディアン文化の抹殺が、徹底的に押し進められた時期です。
キャンベル　：
　インディアンたちは数十年の間に、白人によって自然環境を奪われ、食料源を奪われ、儀式を奪われました―　彼らが一体どんな思いを味わったのか、それは想像もつきません。

○　少年は儀式によって、母の子から父の子になる

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人間が、未知のものの持つ「不思議さ」に気付き、神話的なイマジネーションを持つようになったのは、原始時代の狩猟生活の頃と言えるでしょうか？　先生は、そういう風に考えておられるわけですね？
キャンベル　：
　その通りです、神話的なイマジネーションは原始時代に花開きました。そして素晴らしい芸術を生み出したのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ヨーロッパの洞窟を訪ねられましたね、洞窟に初めて入られたとき、どうお感じになりましたか？
キャンベル　：
　立ち去り難かったですね。まるで大聖堂のような巨大な部屋に入ると、（牛など）動物の絵がいくつも描かれているんです―　イキイキとした絵です、絹の上に墨で描いた日本画を思わせました。
　その洞窟の部屋の暗いことといったら、信じられないくらいです。私たちはライトを持って、その部屋に入って行ったんですが、案内役の人がライトを消したら、それまで経験したことも無いような暗闇に包まれてしまったんです。太陽の光は、一切届きません。あまりにも真っ暗で、自分がドコにいるのかも、東西南北のどっちを向いているのかも分かりません―　方向感覚がなくなってしまったんです。

　そしてライトが点き、また動物たちの絵が目に入ります。長さ６ｍもの巨大な絵がありました―　岩の隆起がちょうど（牛の）腰の出っ張りのところへ来るように描かれています　―ちゃんと考えてあるんです、信じられませんよ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　原始時代の芸術を見たとき、私は作品そのものより、それを描いた人に興味がわきますね。一体どんな人だったのか、想像してみたくなります。
キャンベル　：
　洞窟に入ると、それを考えずにはいられませんね　―彼らは何を考えながら、この絵を描いたんだろう？　（手も届かない）天井に描くときはどうしたんだろう？　何の明かりで描いたんだろう？　揺らめくタイマツの灯だろうか？　そしてこの美しさは計算されたものなんだろうか？　それとも美しい魂から自然に湧き出たものなんたろうか？―　といったことをね。
　重要なのはメッセージ、洞窟が私たちに伝えてくれることです。洞窟は、「時間と、永遠なる力の関わり」というものを、私たちに伝えてくれます―　それを感じさせてくれるんです。

　洞窟の中に行くと、不思議な感覚に囚われます―　そこは生命を生み出す空間、子宮だと感じるんです。その空間こそ本来の世界で、太陽が輝くゴチャゴチャとした地上は二次的な世界なんだと感じます、強烈に感じるんです。（洞窟に）入るたびにそう感じます。
　洞窟は何に使われたかというと、一番多い説は、少年たちが狩猟の仲間入りをするための儀式を行うために使われたというものです。洞窟に入っていくのは非常に危険です、真っ暗ですし、寒くてジメジメしています。岩があちこち出っ張っていて、頭がぶつかります―　大変な恐怖です。少年たちは、それを乗り越えて大地の懐へ入っていくんです。たとえ導き役のシャーマンが付いていても、それは少年たちにとって大きな試練です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　たいまつの灯った大きな部屋に辿り着いて、ようやく解放されるんですね。その儀式は少年たちに何を教えるんでしょうか？
キャンベル　：
　洞窟は、すべての動物を生んだ大地の子宮です。洞窟での儀式は、狩猟が上手くいくようにするためのものでした　―狩猟はとても危険なものでした。少年たちが学ばなければならなかったのは、狩りの技術だけではありません。動物を敬うことや、儀式の行い方も学びます―　一人前の男として生きることを学ぶんです。
　洞窟は、儀式を行う神聖な場所でした。そこで少年たちは、母親の息子であることを卒業し、父親の息子になるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　少年たちは儀式をどう受け止めたんでしょうか？
キャンベル　：
　少年たちは与えられた試練を乗り越えなくてはなりません、そして一人前の男になるんです。現在でも、こういう大人の仲間入りのための儀式を、少年たちに課している社会があります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その儀式は、ある日突然行われるんでしょうか？
キャンベル　：
　オーストラリアの先住民の場合は、こんな風に行われたようです。少年が大きくなり、言うことを聞かない年頃になってくると、ある天気のいい日に男たちがやってきます。彼らは体に白い鳥の羽を貼り付けています―　自分の血を塗って、そこに貼り付けていくんです。男たちは楽器を鳴らしています―　それは精霊の声です。彼らは精霊として、やって来たんです。
　少年は母親に助けを求め、母親は彼を守るフリをしますが、男たちは少年を連れ去ります―　仕方がありません、少年はもう子供ではないんですから。男たちは少年を厳しい試練に遭わせます、割礼などの儀式を受けさせるんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その目的は？）　少年を部族の一員にすることです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　迎え入れる・・・　狩人として？
キャンベル　：
　そうです、彼らにとって最も重要なことは、部族の要求と価値観に沿って生きていくことです。少年は儀式を通じて、自分の部族の文化の中に速やかに組み込まれていくんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　もし神話がなくなってしまったら、儀式も消えるんでしょうか？　神話は、儀式に直接関わっていますね？
キャンベル　：　儀式は、神話の再現です。ひとは儀式に参加することで、神話に参加します。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　現在、神話は消えつつあるし、儀式も変わってきていますね？
キャンベル　：
　現代の少年が、大人の仲間入りをする儀式のひとつは、キリスト教の献身式です。献身式とは、いわば一人前のキリスト教徒の仲間入りをする儀式と言えます。献身式では司教や司祭が、その子の頭に手を置いたりしますが、肩に傷をつけたり、歯を抜いたりはしません―　儀式は、今ではとても簡素化されているんです。
　ユダヤ教では13歳の少年が、バルミツバーと呼ばれる成人式にあたる儀式を受けますが、それが少年たちに変化をもたらすかどうかは不明です。でも昔の儀式は、少年の心と体に変化をもたらしていました―　儀式によって少年は、確かに変わったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　女性の場合はどうなんでしょう？　洞窟に描かれた人間のほとんどが男性ですが、女性は儀式への参加が許されなかったんでしょうか？
キャンベル　：
　そういうことではなく、男の子は参加する必要があったということです　―と言っても、当時の女性のことはハッキリとは分かりません、証拠がほとんど無いからです。現代の未開社会では、少女は初潮によって大人になります、それは自然に起こる体の変化です。
　体が変化するだけではなく、儀式もあります。典型的な例はこうです、少女は何日間か狭い部屋に閉じこもって、自分が何ものであるかを自覚するんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どうやってですか？）　ただ座っているんです。少女は、もう「女」です。

　「女」とは何でしょうか？　「女」とは命を担い、伝える存在です。つまり少女は命の担い手になったんです。「女」はすべてです　―命を誕生させ、育みます―　大地の女神と全く同じです。そのことに少女は気付かなくてはなりません。
　少年の場合は全く違います、少年は人為的に大人にされ、自分より大きな何かのために仕える必要があります。「女」は命の担い手になり、「男」は社会や秩序の担い手になるのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　社会に強力な神話が存在しなくなったら、どうなるでしょうか？
キャンベル　：
　いま、私たちの社会はどうなっているでしょうか？　神話も無く、儀式も無い社会がどういうものかを知りたければ、新聞を読めばいいんです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そこにあるのは？）　今日のニュースです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　争い？）
　文明社会で、どう振舞えばいいのか分からない若者たちのニュースです。犯罪の半分は、20～30代の人びとによって引き起こされているように私には思えます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今の社会は、若者たちに儀式を提供していませんね？
キャンベル　：
　その通りです、儀式は無くなっていくばかりです。カトリック教会でさえ、ミサで使う言葉が儀式らしくなくなり、日常的な言葉になっています―　ラテン語は使われなくなりました。私はミサのラテン語を読むたびに、独特の調子を感じます　―それは私たちを日常から切り離す言葉なんです。
　教会の祭壇も本来は、司祭が私たちに背を向けるようになっていて、司祭と私たちは共に外に向かって呼びかけたものです。ところが今は祭壇は逆向きになって、司祭はこちらを向いて話します、くつろいだ雰囲気でねえ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ギターも弾きます。
キャンベル　：
　まったくねえ、彼らは儀式の役割を忘れています。儀式は私たちを日常から切り離すもののはずなのに、日常に包み込んでいるんです。

○　古代の語りべは　地上を離れ神のもとへと到達する

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　かつては内面の真実を伝えた儀式も、今では形骸化してしまいましたね。社会的な儀式も、結婚や葬式などの個人的な儀式もそうです。
キャンベル　：
　そう、儀式というものは生きていなくてはいけません。しかし現代の儀式の大部分は、死んでしまっています。原始的な素朴な文化の神話や伝説を調べてみると、大変興味深いことがあります。神話や伝説は、人びとの暮らす環境によって絶えず変化していたということです。
　例えば農耕生活をしていた人びとが、草原に移って狩猟生活をするようになると、神話の題材は植物から動物へと変化しました　―アメリカインディアンの神話に、そういう例が見られます。大平原のインディアンの大半は、もともとはミシシッピ川流域に住み、主に農業を営んでいました。当時、農作物に頼って生きていた彼らの神話は、植物を題材にしていました。

　ところがスペイン人から馬を譲り受けると、彼らは大平原に乗り出して行けるようになりました―　バッファローの群れを相手に、大規模な狩りができるようになりました。すると彼らの神話の主役は、バッファローになったんです。こんな風に農耕生活から狩猟生活へと移り変わり、環境が変化したら、神話も変化したんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　環境が神話を作るわけですか？
キャンベル　：
　神話は環境に対応する、ということです。ところが神話は、今日の私たちの環境には対応していません。神話は、古くから受け継がれてきたままで、新しい文化や科学を取り入れて来なかったんです。しかしそれでも神話は生き続けなければいけません、それを可能にできるのは芸術家です。
　芸術家の役割は、いま私たちが生きるこの世界、この環境を神話にすることなんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　芸術家というのは詩人や音楽家や、作家ですね？
キャンベル　：
　そうです、近代の偉大な芸術家は、たとえば作家のジェームス・ジョイスです。ジョイスは、人間が成長していくことの神秘を表現しました。それからトーマス・マンも偉大な芸術家です。ジェームス・ジョイスとトーマス・マンは、私が青少年期に最も影響を受けた作家です。
　美術の分野ではまずパウロ・クレーです。クレーは神話的なテーマを、見事に表現したと思います。ピカソもそうです、クレーもピカソも多彩な表現力を持っていましたし、自分をみつめる目を持っていました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　芸術家は現代の神話作家だということですね。
キャンベル　：　芸術家は、古代なら神話の作り手に相当します。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話の作り手は、絵を描き儀式を行いましたね。
キャンベル　：
　「古代の神話は民衆から生まれたものだ」という考え方がありますが、そうではありません。特別な人びとの体験から生まれたんです―　それは並外れた才能があり、宇宙の歌を聴くことができる人々です。彼らは民衆に語りかけ、民衆はそれに応える―　相互の交流がありました。
　しかし民衆の伝統を形づくる最初の衝動は、民衆から出たのではなく、特別な人びとから出たんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そういう古代の社会で、今日の詩人に相当したのは、どういう人だったのでしょうか？
キャンベル　：
　シャーマンです。シャーマンは男であれ女であれ、青少年期に心理的な意味でとてつもない体験をして、完全に自分の内面を向くようになった人です―　無意識のすべてが、ぱっくり口を開けて、そこに入り込んでしまったんです。
　シャーマンに関する記録は数多くあって、シベリアから南米まであらゆる所で目撃されています。シャーマンの体験は、精神分裂病（現統合失調症）的なところがあります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どういう体験ですか？
キャンベル　：
　一度死んで、また息を吹き返すんです。死の淵をのぞいて戻ってくる―　というか、死を実際に体験するんです。シャーマンというのは、非常に深い夢を見る人たちです、神秘的な世界に遭遇した人たちです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　こう考えて良いんでしょうか、シャーマンは普通の世界から抜け出て、特殊な世界に踏み込むという体験によって社会の中で特別な人物になったと？（キャンベル：　その通りです）
　シャーマンは魔術師か何かのように思われがちですが、重要な役目を果たしていたんですね。

キャンベル　：
　シャーマンは、今日の社会で言う「聖職者」にも似ています。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　僧侶や司祭のような？）　ただそういう聖職者やシャーマンの間には、明らかに違いがあります。聖職者というのは社会的な地位です―　社会がある神を、ある方法で信仰するとき儀式を執り行うのが聖職者ですが、彼が仕える神は、彼が現れる以前に存在しています。聖職者の力は、社会的地位から来るんです。
　一方シャーマンの力は、彼自身の神がかり的体験、つまり霊魂との接触に象徴されます。シャーマンの権威は社会的な地位から来るのではなく、心理的な体験から来るんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　シャーマンはトランス状態になって、超自然的存在と接触することで、それらと人びととの仲介者になるんですね？
キャンベル　：　そうです。シャーマンは人びとに神話的世界を伝えると言ってもいいでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　トランス状態で魂が抜け出すことが…
キャンベル　：　ええ体を離れてね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　たとえばカラハリ砂漠の人びとのダンスです。
キャンベル　：
　あれは「トランス状態」の大変いい例です。アフリカのカラハリ砂漠に住むある部族は、小さなグループで生活していますが、厳しいしきたりを守っています。男性と女性は厳密に分けられ、別々の仕事に従事します。男性は狩猟のことや、武器や毒のことなどを担当します。女性は子供を育て、養います。
　ダンスをする時だけ、男女が一緒になるんです。女たちは輪になるか、固まって座り、その周りで男たちが踊ります。女たちは歌を歌い、自分のももを叩いて調子をとり、その２つで男たちの踊りをコントロールします。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ナゼ女たちが踊りをコントロールするのでしょう？
キャンベル　：
　女性は生命そのもので、男性は生命の僕（しもべ）だということでしょう―　踊りながら回っているうちに、男たちの緊張は高まっていきます。そして突然ひとりが気絶します―　彼はトランス状態に入ります。これはその時の彼の体験です・・・。

　―ひとびとが歌い、私は踊る。私は大地に入っていく―　水飲み場のようなところから、そしてずっと遠くまで行く。外へ出ると私は糸を登っている。１本登っては、また１本と登り続ける。やがて神のもとへ辿り着く、私は体を小さく縮め、神のもとへ行く。
　そこでやるべきことを終えると、私は人びとのいるところへ戻る。みんな私を待っている、私を畏れている。　長い時間をかけ、私はようやく自分の体に戻ってくる。そして叫ぶ―　体に戻ったという合図だ。私は歌い始める。私の顔の両側に息が吹きかけられる、それによって私はまた生き返ることができるのだ。もしそうしてもらえなかったら、私は死んでしまう―　死んだまま、息を吹き返さない。これが私の体験することだ。―

　この体験は、実際に地上を離れ、神話的なイメージの世界を通って、神、あるいは力の在り処へ到達した体験なんです。

（書籍　：一万年を超えるネイティヴ・アメリカンの口承史）
http://www.amazon.co.jp/dp/4881356070/

（遺伝子検査　：遠い昔、遥か南方の太平洋で・・・）
https://mycode.jp/topics/feature_article_haprotypeB.html

返信
アケオメ熊より:

2016/01/01/ 09:11 9:11 AM

今年もよろしくお願いいたします。

神話の力「第４回　死と再生」（1994年1月放送）

インディアンの首長
シアトルの言葉　1852年

　ワシントンの大統領が、我われの土地を買いたいと言って来た。しかし、土地を売り買いするなどということが、ナゼできるのだろうか？
　我われにとって、大地は隅々まで神聖なものだ。砂浜も草地も、森を包む霧も、松葉の一本一本も聖なるものなのだ。

　我われは大地の一部であり、大地は我われの一部だ。
　花ばなは我われの姉妹で、熊や鹿や鷲は我われ兄弟だ。湖の澄んだ水に映る影は、我われの思い出を語る。
　せせらぎの音は祖父の声であり、川は我われの兄弟だ。川はカヌーを運び、子供たちに食べ物を与えてくれる。

　大気は尊いものであり、あらゆる生き物と魂を共有している。我々の祖父に最初の息を与えた風は、また彼の最期の息を受け取る。
　大地が人に属するのではない、人が大地に属するのだ。あらゆるものはつながりあっている。
　命の綱を編んだのは人間ではなく、人間はその中の一本の縄にすぎない

　もしバッファローが皆殺しにされてしまったら、どうなるのだろう？
　森の奥の奥まで人間の臭いがあふれ、緑豊かな丘の景色が電線で損なわれたらどうなるのだろう？　それは生きることの終わりだ。
　我われインディアンが原野と共に消えてしまったとき、この岸辺や森はまだ（美しいまま）ここにあるだろうか。
　私の一族の魂が、少しでもここに残っているだろうか。我われはこの大地を愛している、赤子が母の胸の鼓動を愛するように。

　もしも我われが貴方がたに土地を売るようなことになっても、我われと同じようにそれを愛し、慈しんでほしい。
　子供たちのために土地を守り、愛してほしい、神が我われすべてを愛するように。
　神は唯ひとつであり、インディアンであれ人であれ、我われはすべて兄弟なのだ。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　聖地、聖なる地と言われるのは、例えばエルサレム、英ストーンヘンジなど各地にあります。私たちは社会が一体となって、それらの聖地を崇拝していたと考えがちです。しかしジョーゼフ・キャンベルが指摘したように、いくつかのごく初期の社会では、大地全体が聖地だったのです。私たちの祖先は広々とした平原で暮らしていても、木々の生い茂るジャングルで暮らしていても、周りのすべてに「聖なるもの」を見い出していました。神々の声が風や雷を通じて語り、神の心がすべての小川に流れていたのです。そこは、都市でも国家でもなく、聖地でした。
　私たちの祖先が、狩猟生活から農耕生活へ移行すると、生命の神秘について説く物語も変化しました。動物に代わって植物が、生と死と復活の象徴になったのです。植物は死に、埋められ、種がふたたび芽吹き、復活します。死から、ふたたび生が生まれるのです。

　ジョーゼフ・キャンベルは、聖地の本質や、神話と風景の関わりを探究しました。

☆　　第４回　死と再生　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　聖地を持つとは、どういうことですか？
キャンベル　：
　聖なる場所を持つことは、今日のすべての人にとって絶対に必要なことです。私たちには、その日の新聞に何が書いてあるかも忘れて、自分の友だちは誰で、誰に借りがあるのかといったことも、一切忘れる時間や空間が必要です。そういう空間、あるいは１日の内のひとときが、その人の聖地なんです。
　聖地では自分が何者なのか、何者に成り得るのかを感じ取ることが出来ます。そこは新しい何かが生れる場所です。初めは何も起こりそうにないと思えるかもしれませんが、もしアナタが自分の聖地を持ち、それを活用するなら、何かが起こるでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　原始時代の狩猟民族にとっては、平原が聖地でしたね。
キャンベル　：
　いやぁ、彼らにとっては世界全体が聖地でした。今日の私たちの行動は、経済的な要素や、社会的な要素に左右されています。ひとは年齢を重ねるにつれ、周囲から課せられる要求があまりにも大きくなって、一体自分がドコにいるのか、何をしようとしていたのか分からなくなりがちです。四六時中、やらなくてはならない用事に追いまくられてしまう。
　しかし、自分にとっての無上の喜び、至福というものを追い求めるべきなんです。それは大好きな音楽を聴くことかも知れない―　例えそれが、他人は見向きもしない陳腐な音楽でも構いません。あるいは好きな本を読むことでもいい、そういう時間や、空間を持つことです。そこでは人生を崇高なものとして感じることが出来ます。かつて平原の狩猟民族は、世界のどこにでもそういう「聖なる場所」を見い出していました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今まで広々とした平原に住む人びとの話をしてきました　―平原は頭上に「青空のドーム」を頂き、地平線でハッキリと区切られた空間です。空には鷹や鷲が舞い、輝く太陽が行き過ぎ、夜は月が昇ります。
　一方、鬱蒼としたジャングルに住む人びとの場合は、平原の人びととはかなり違う神話を持っているでしょうね？
キャンベル　：
　ええ、環境も人間の心理も違いますからね。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　地平線は見えませんし。）ええ。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　空も良く見えない。）その通りです。
　上には木々が茂り、沢山の鳥がいます。下には植物が繁茂していて、サソリや毒ヘビもいます。その中間は、木々の緑がドコまでも続いていて、遠近感というものがありません。アフリカのジャングルに住むピグミーについて、大変興味深い話があります。

　ジャングルから一度も出たことの無いピグミーの男性を、ある人類学者が山へ連れて行きました。丘の上へ来ると突然、目の前に広大な平原が広がりました―　するとそのピグミーはすっかり怯えてしまったんです。彼は空間の広がりや距離を全く把握できず（？）、遠くで草を食んでいる動物をスグそばにいるアリだと思いました。すっかり気が動転したピグミーは、大急ぎで森へ帰ったそうです。彼にとっては、森こそ我が家なんです。
　森は、憩いの場です。私たちなら「木の陰に何か潜んではいないか」と思ったりして、落ち着かないでしょう。でも森には素晴らしい、素朴な喜びがあります。そこは「森の主」である神々の世界です。森には、平原とはまた別の神話があります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私にとって印象的なのは狩りをしたり、木の根や木の実を集めたりして生きる人びとは、風景に溶け込んでいるということです―　世界の一部になっているということです。（キャンベル：　確かにそうです。）
　彼らにとって、森は「聖なる場所」なんですね？　（キャンベル：　隅々に到るまで、そうです。）
　現代人は、世界から自然を奪っていますね？（キャンベル：　その通りです。）
　ピグミーの、こういう神話をご記憶ですか？　少年が、森で一番美しくさえずる鳥を捕まえる話です。

キャンベル　：
　そして、鳥を家に持って帰るんですね。でも少年の父親は「鳥なんぞに食べ物をやれるか」と言って、ある時その鳥を殺してしまう。その時、父親は自分の命も殺したことになって、死んでしまう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そうです、その神話にこうあります。　―男は鳥を殺し、鳥と共に歌を殺し、歌と共に自分も殺した―
　この神話は、「人間が自然を破壊し世界を破壊したらどうなるか」を物語っていますね？（キャンベル：　自分を破壊するんです。）
　人間自身をね。そして、歌を殺す。その歌を物語るのが、神話でしょうか？
キャンベル　：
　神話は、歌です。神話は、自由奔放なイマジネーションの産物です。それは肉体のエネルギーによって、命を吹き込まれます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人間の暮らしが狩猟から農耕生活に変わると、神話を生み出すイマジネーションも変化しましたね？
キャンベル　：
　そうですね、動物と植物は、大きく違うからだと思います。動物は、いわば完全に独立した生命体です。人が動物を殺せば、その動物は死んでしまい、それで終わりです。ところが植物は、一本の木を切り倒しても、別の新しい芽が出てきます。また枝を切って剪定することは、植物にとって有益なことです。
　森では、岩からも生命が生まれます。私は、カリフォルニア州レッドウッドの森林地帯へ行ったことがあります。森の中には、何十年も前に切り倒された巨大な木の切り株がありましたが、その切り株からは、色鮮やかな若木（下記リンク）が伸びていました。新たな子孫が生まれていたんです。
http://www.google.co.jp/search?q=ひこばえ　鶴岡八幡宮&tbm=isch

　つまり農耕社会では死は、ある意味で死ではありません。死は、生命が新たに生まれるために必要なものです。個人は「全くの個人」ではなく、「ひとつの植物の枝」なんです。イエスはこう言っています、「私はブドウの木であり、貴方がたは枝である」。　植物は、動物という独立した存在とは、全く違うんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　だから神話も違ってくる。
キャンベル　：　生命に対する感覚もね。

○　犠牲になった人の死体から　食物の木が生える

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　農耕生活から、どんな神話が生まれましたか？　その神話の特徴は、何でしょう？
キャンベル　：
　刈り取ることと、土地に埋めることで、植物の世界は発展します。神話には「切り刻まれて、埋められた人の死体から食料となる植物が生えてくる」というモチーフが、よく見られます―　特に太平洋地域と、南北アメリカ大陸の神話ではそうです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　トウモロコシの起源を説く物語に、そういうものがありますね。アルゴンキン・インディアンの神話でしたか？
キャンベル　：
　ええ、少年の幻想についての物語です。

　―ある少年のもとに、頭に羽根や木の葉を飾った若者がやってきました。若者は少年に「取っ組み合いをしよう」と誘い、少年に勝たせます、何度も何度も勝たせます。若者は３、４回やってきて、その度に同じことをしました。そして少年にこう言います、「この次、俺が来たら、俺を殺して埋めるんだ」。
　次に若者が来たとき、少年は言われたとおりにして、彼を土に埋めました。しばらく経ってから来てみると、そこにトウモロコシが生えていたんです。実は少年は、前々から狩り以外の方法で食料を得られないだろうかと思っていたんです　―狩人である父親が、年老いていたからです。―
　・・・少年の思いが、トウモロコシをもたらしたんでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　望みどおりトウモロコシが得られましたね。トウモロコシは、若者の亡き骸から生えてきました。ということはトウモロコシが生えるためには、若者が死んで埋められなければならないんですね？
キャンベル　：
　それがテーマなんです。これとそっくりな話が、例えばポリネシアの神話にもあります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ポリネシアには、ヒナという乙女が出てくる神話がありますね？
キャンベル　：
　ええ、ポリネシアの神話には、たびたびヒナという名前の乙女が登場するんです。ヒナは月と関わりがあります―　月の満ち欠け、つまり「死と復活」が大きなテーマです。

　―ヒナは、池で水浴びをするのが大好きでした。その池には大きなウナギがいて、毎日水浴びをするヒナの脚に擦り寄るようにして泳いでいました。やがてよく晴れた日にウナギは若者に姿を変え、ヒナの恋人になります。でもそのうち、いなくなってしまいました。また来ては、いなくなり、また来ては、いなくなります。
　何度目かに若者は、アルゴンキンの神話のようにこう言いました、「この次、俺が現れたら、俺を殺して頭を切り落とし、それを土に埋めるんだ」。ヒナがその通りにすると、頭を埋めたところから、ココヤシの木が生えました。―
　・・・実を採ってみると、ちょうど頭ぐらいの大きさです。凸凹が、目やら鼻やらを思わせて、頭にそっくりなんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまり、お互いに関わりのない２つの文化の中で、同じ物語が生まれたわけですね？
キャンベル　：
　ここまで似通っていることには、驚いてしまいます。私は長年、神話を研究してきましたが、遠く離れた文化の間に多くの類似点が見られることには、今だに圧倒されてしまいます。ナゼそんなに似ているのかについては、２つの説があります。
　１つは「人間の心理は、本質的に世界のどこでも同じだから」という説です―　「世界中の人間は同じ肉体を持ち、本能も葛藤も、恐れも同じだ」と言うんです。

　一方、これを歴史的に説明する説があります。　―古代の世界では、中心は中近東とアジアで、まずそこで農業が発達しました。農業は各地に伝わり、それと共に神話も伝わりました。農業と共に伝わる神話は、当然「大地を肥沃にして、植物を育てる」というものになるハズです。そこから「ひとを殺して埋めると、（その養分で）植物が生える」という神話が出てきて、それが各地に伝わった―　と言うんです。
　こういう神話は、農耕文化特有のもので、狩猟文化では見当たりません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「必ず誰かが死んで犠牲になり、そのおかげで生命が生まれる」という点が、興味深いですね。
キャンベル　：
　カトリックの儀式で素晴らしいものの１つは、聖体拝領です。キリストの血と肉を表す聖餐（下記リンク）をいただきます―　すると私たちは内面に目が向き、自分の中にキリストを感じるんです。
http://www.google.co.jp/search?q=ホスチア&tbm=isch

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その儀式が示す「真理」は何でしょうか？
キャンベル　：
　十字架に掛けられて死んだキリストの肉体から、精神の糧が生まれた―　ということです。つまりキリストも、アルゴンキン・インディアンやポリネシアの神話の若者と同じように、死んで埋められることによって、食べ物をもたらしたのです。キリストの死と復活には、切り倒してもまた芽が出るという、植物のイメージが含まれています。
　狩猟文化において犠牲が捧げられる場合、それは「自分たちのために」何かをしてくれたり、与えてくれたりする神への贈り物のようなものです。一方農耕文化において誰かが犠牲になる場合は、犠牲になるその人は神なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　犠牲についての昔の考え方は、今日とは全く違いますね。
キャンベル　：
　確かに、古代の犠牲の考え方は、今日の私たちには思いもよらないものです。古代の犠牲の見事な例は中央アメリカ、マヤ人のボール競技です。
　古代マヤ人は、バスケットのようなボール競技を行っていました。競技場の壁に輪があって、それに大きな重いボールを通す競技です。詳しいやり方は分かりませんが、頭や肩でボールを打ったんでしょう。決着が付くと、勝ったチームのキャプテンは、負けたチームのキャプテンによってその場でクビを刎ねられます。

　勝った者が、犠牲になるんです。犠牲になることは人生の勝利である―　というのが、古代の犠牲の考え方の本質です。

○　生と死は深くかかわり、死なくして誕生はありえない

　かつて行われていた「首狩り」というものは東南アジア、特にインドネシアではどういう意味を持つと考えられたんでしょうか？　首狩りは聖なる行為です、聖なる殺人です―　死なくして誕生はありえません。青年は結婚して、父親になる資格を得るためには、まず人を殺さねばなりませんでした。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　死が必要なんですね？
キャンベル　：
　どの世代も、新たな世代が生まれるために死ななければなりません。ひとは、子供ができたらもう「死んだも同然」です　―新たな命である子供の保護者―　に過ぎなくなるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「お役御免」なわけですか？
キャンベル　：　肝心なのは、「誕生と死は深い関わりがある」ということです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そのことは、親が子供のために命を投げ出したりすることと、何か関係がありますか？
キャンベル　：
　ドイツの哲学者ショーペンハウアーの論文が、ヒントを与えてくれます―　それは素晴らしい論文でねえ、私のお気に入りなんです。ショーペンハウアーは、私の好きな３人の哲学者の中の一人です。
　彼はその論文で、あなたと全く同じ問いを発しています。　―他人の危険や苦痛を目の前にしたとき、人間がとっさに何も考えず、その人のために自分の命を投げ出そうとするのはナゼだろうか。―　我われが普通、自然の第１の法則と考えている「自己保存の本能」が、突然消えてしまうのはナゼだろうかとねえ。

　この問題を象徴するような不思議な出来事が、４、５年前ハワイでありました。ハワイにヌアヌパリという所があります―　そこは北からの貿易風が山の尾根を吹き抜けて、激しい突風が吹く所（展望台）です。沢山の人びとが、そこに登りに来ますが、ときには飛び降りて自殺してしまう人がいます―　サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジのようにね。
　ある朝早く、２人の警官がパトカーでヌワヌパリへの道を登っていると、ガードレールの外に一人の青年がいて、今にも飛び降りようとしているのが目に入りました。パトカーは止まり、助手席にいた警官が外へ飛び出しました。青年が飛び降りるその瞬間、警官は彼を捕まえましたが、引っ張られて一緒に落ちそうになります。間一髪のところで、もう１人の警官が駆けつけて２人を引き上げたんです。驚くべきことだったので、新聞に大きな記事が載りました。

　青年を助けた警官に、何が起こったか分かりますか？　人生の他のことが一瞬にして、どこかへ行ってしまったんです―　家族に対する責任も、仕事上の義務も、人生のあらゆる望みや希望も、フッと消えてしまって、ただ青年に飛びついたんです。
　その警官は、こう質問されました、「ナゼ手を離さなかったんですか？自分の命が危なかったのに」。彼は答えました、「手を離すことはできませんでした。もしあの青年を死なせていたら、私は一日だって生きてはいられなかったでしょう」。

　ナゼでしょうか？　ショーペンハウアーの答えによれば、「人間は他人と一体だから」です―　この絶対的な真実が、突発的に現れたのが、この出来事なんです。
　自分と他人が別々に見えるのは、私たちの感覚が、時間と空間に縛られているからすぎません。

　人間の本質は、すべての生命との一体性、融合の中にあります。この一体感というものは、私たちが自然に実感できるものです。なぜならそれは人生の、本当の真実だからです。英雄というのはいわば、この真実を実感して自分の肉体的生命を捧げた人のことです。

　人間は部族とも、その他の人びととも一体であり、生命と一体なんです。これは（こめかみを指差しながら）「タダの概念」ではありません　―真実です、分かりますか？　「汝の隣人を愛せ」という言葉は、この真実に従って生きよ、ということです。
　でも隣人を愛していなくても、この真実は人の行動を左右します。あの警官は、青年が誰かも知らないのに、命がけで彼を助けたんです。これほどドラマチックではなくても、同じような出来事は世界中でいつも起きています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　今日の文化でも、自分を犠牲にする英雄がいるわけですね。
キャンベル　：
　ベトナム戦争中、テレビでこんな光景を見ました。ヘリコプターに乗った若い兵士たちが、自分の身を大きな危険にさらして仲間の一人を助けに行くんです―　助けに行く義務があったわけではないのに。ここでも「すべての人間はひとつだ」という真実が、兵士たちを動かし仲間のために自分を犠牲にするような行動を取らせたんです。
　それは兵士たちを「生きる」という体験の中に、投げ込みます。人生は、苦しく恐ろしいものですが、神によって人は生きています　―それは素晴らしいことです。兵士たちは、仲間を助けるとき、命を実感したでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　長年、地下鉄で通勤しているある男性が言いました、「俺はこうやって少しずつ死んでいくが、毎日通うのも家族のためだ」。彼だって、ちいさな英雄です。
　ひとから注目されるような、華々しい行為ではありませんが、ささやかな英雄的行為です。家族のために耐えるという意味では、母親も英雄でしょうか？

キャンベル　：
　母であるということは、自己を犠牲にするということです。ハワイにある我が家のベランダには小鳥が来るので、妻のジーンがよくエサをやっています。母鳥はヒナ達にうるさくエサをせがまれるので、自分の食べたものを戻して与えてやります。その哀れな母鳥の周りで、時には５羽ものヒナ達が、バタバタと大騒ぎをするんです。ヒナの方が、体が大きくなっていることもあります。あの光景は、母性の象徴です―　母親は自分を犠牲にして、子供にすべてを与えるんです。
　結婚にも犠牲が伴います。結婚はひとつの関係です。結婚における犠牲は、相手ではなく、関係に対して払う犠牲です。ですから結婚は恋愛ではなく、試練なんです。その試練は、関係に対して自我を犠牲にして、二人がひとつになることです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「ひとつになる」とは生物学的にも、精神的にも？（キャンベル：　主に精神的にです。）
　一般には「結婚の役割は、子供を作って自分を不滅にすること」だと考えられています―　でも、それが最も重要なことではないんですね？
キャンベル　：
　それは結婚の第１の段階に過ぎません。結婚には２つの、全く異なる段階があります。第１は、結婚の初期の段階です―　若い二人が、自然が与えてくれた素晴らしい衝動に従い、子供が誕生します。でもやがて、子供が成長して巣立ち、夫婦が残される日が来ます―　そこからが夫婦の第２の段階です。
　私は、40代50代で離婚する友人が多いことに驚いています。どの夫婦も、子供が一緒だった頃は申し分の無い生活だったんですがねえ。彼らは結婚を、子供を通した関係で捉えていて、お互いの個人の関係では捉えていなかったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまり自分というものを、全く忘れてしまったんですね？
キャンベル　：
　結婚すれば、自分というものは無くなるんです。ある意味では自分というものがありますが、その自分とはその人個人ではなく、夫婦二人のことです。結婚は２つの卵を割って、オムレツを１つ作るようなものです。
　個々に独立した存在が犠牲になることで、超越的な結合が生じるという神話的作用です。私たちは相応しい相手と結婚することによって、神話的世界を実現するんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　相応しい相手を、どうやって見分けるんでしょうか？（キャンベル：　心が教えてくれます。）
　内なるものが？（キャンベル：　神秘がね。）
　自分の片割れを見抜くわけですね？
キャンベル　：
　そうですね、良く分かりませんが閃くものがあって、なぜか「この人だ」と分かるんです。

○　我々の存在は　肉体の死によって終るわけではない

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話は、死についてどう語っていますか？　死をどう思われますか？
キャンベル　：
　そうですねえ、もし「自分は意識であり、肉体は『意識の入れ物』に過ぎない」と認識できるなら、ひとは肉体を手放すことができます―　例え「意識とは何か」説明できなくてもねえ。私は映画監督のウディ・アレンが言った言葉が好きです。
　―私は死ぬのは恐くない。ただ死ぬとき、そこに居たくないだけだ―　肉体から自分を解き放って、そこにいないことだって、できるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかし神話でも、現実の世界でも、肉体が死ぬことは明らかです―　それは朽ち果て、消滅します。
キャンベル　：
　仕方が無いことです、いつかは、そうなります。肉体はだんだん歳を取って、エネルギーがなくなり、死んでいきます。しかし私たちの存在は、肉体の死によって終わるわけではありません。私たちは、生命と一体なんです。
　植物の命は、刈り取られても、食べられても生き続けます―　死を乗り越えて再生する、この植物の姿は、生命の崇高な神秘を象徴しています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　興味深い話があります―　インディアンたちがカスターの軍隊の一斉射撃をものともせず、突進しながら「死ぬにはいい日だ」と言ったという。
キャンベル　：
　「死ぬには、絶好の日だ」、彼らは「生」に執着しません。
　神話は私たちにこう、教えてくれます　―現在の自分は、自分という存在の最終的な姿ではない―　ということです。そして私たちはいずれにしろ、死ななくてはなりません―　肉体的に消滅して、やがて再生するんです。
　生命というのは、いつも死と、隣り合わせです　―必ず、そうなんです。でも、ひとは恐れることなく生きる勇気を持たなければなりません　―これは、あらゆる英雄の物語で、主要なテーマになっています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それがテーマになっている物語といえば、例えば？
キャンベル　：
　アーサー王の甥に当たる騎士ガウェイン卿と、緑の騎士の物語がそうです。

　―ある日アーサー王の宮廷に、緑の馬に乗った堂々たる体格の騎士がやって来ました。その緑の騎士は言います、「ここにいる誰でもいい、この大きな斧で、私の首を切り落とす者はいないか？　その代わり１年後、緑の礼拝堂へ来るがよい。今度は私が、その者の首を切り落とす」。この奇妙な申し出に応じる勇気があった騎士は、ガウェイン卿だけでした。
　緑の騎士は馬を降り、首を突き出します。ガウェインが斧を振るうと、首が転がりました。ところが緑の騎士は、自分の首を拾い、馬に乗ると「１年後に会おう」と言って、立ち去ります。そして、その約束の日が近づいてきました。

　ガウェインは、緑の礼拝堂を捜しに出かけます。彼は狩人（挿し絵の狩人は「緑の騎士」にそっくり）の小屋を見つけ、礼拝堂の場所を訪ねました。そしてことのいきさつと、３日の内にそこに行かなくてはならないことを話しました。すると狩人は言います、「緑の礼拝堂はスグ近くです。ここから200ｍほどでしょうか。約束の日まであと３日あるなら、それまでこの家で過ごしてはいかがですか？　私たち夫婦がおもてなしをします」。ガウェインはこの誘いを受けることにしました。
　狩人は言います、「私は昼間は狩りに出かけます―　夜が明けたら出かけ夕方には戻って来て、その日手に入れたものを全部アナタに差し上げます。ですからアナタも、その日手に入れたものを私に下さい」。

　翌日、狩人が出かけた後、ガウェインがベットにいると、狩人の美しい妻が入ってきました。彼女はガウェインのアゴをくすぐり、誘惑しようとします。ガウェインはアーサー王の宮廷の騎士であり、自分をもてなしてくれた狩人を裏切ることなど断じて出来ませんでした。狩人の妻は、たいそう積極的に迫りますが、ガウェインは頑として応じません。仕方なく彼女は「せめてキスをさせて下さい」と言い、大きな音を立てて彼にキスをしました。
　夕方、戻ってきた狩人は沢山の獲物をガウェインに差し出し、ガウェインは彼にキスをしました。２日目も同じことが起き、ガウェインは妻から２回キスをされます。狩人は、前の日の半分の獲物を差し出し、ガウェインは彼に２回キスをしました。３日目ガウェインはまた妻から誘惑されます、もうすぐ首を刎ねられて死ぬハズのガウェインにとって、それは「最後のチャンス」です。

　しかし、それでも彼は拒みました。彼女はガウェインに３回キスをし、靴下を留めるガーターを渡して言いました、「これはアナタをどんな危険からも守ってくれます」。その日、狩人が差し出した獲物は、悪臭を放つみすぼらしいキツネだけでした。ガウェインは彼に３回キスをしましたが、ガーターは渡しませんでした。ガウェインはそれまで肉欲を退けていたのに、ガーターにだけは抵抗できなかったようです。
　そして彼はついに緑の礼拝堂へ向かいます　―死の恐怖に挑むんです。礼拝堂には緑の騎士がいて、大きな斧を砥いでいます「シュッシュッシュッ」。そこへガウェインがやってくると、緑の騎士は言います「この台の上に首を載せるんだ、お前の首を刎ねる」、そして斧を振り上げて言います「もう少し首を伸ばせ」。そして斧を振り下ろします「ヒュッ」、首の皮を少しだけ切り彼は言います「これはガーターの分だ」。―

　・・・緑の騎士は、実はあの狩人だったんです。ガウェインはガーターの誘惑に負けたとはいえ、２つの試練を克服しました―　恐怖と肉欲です。ですから緑の騎士は、彼を救ったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　この話の真理は？
キャンベル　：
　人生において、この上ない喜びや生きている実感、つまり私たちのいう「至福」を感じることの出来るのは、恐怖や誘惑を克服した時だということです。そういう、ひとを惑わせたり束縛したりするものから解脱して初めて、人生の至福が得られるんです。

○　だれもが「至福」を見い出す力を持っている

　シンクレア・ルイスの小説バビットを読んだことは？（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ええ、だいぶ前ですが。）　結びの文は「私は生まれてからずっとやりたくないことばかりしてきた」、これが至福を求めたことの無い人です、そういう人を見たことがあります。　―私はサラローレンス大学で教えていた時、ニューヨークの北のブロンクスビルという街に住んでいました。独身時代は、よく街のレストランで食事をしたものです。
　ある木曜日の晩、私はお気に入りのレストランにいました―　それはギリシャ料理のレストランでした。ふと見るとあるテーブルに一組の夫婦と、12歳くらいの痩せた小さな男の子が座っていました。父親が男の子に言います、「ほら、トマトジュースを飲みなさい」。男の子は言います、「ううん、飲みたくない」。すると父親は声を大きくして「いいから飲みなさい！」、そこで母親が言います「嫌がっていることを、無理強いすること無いじゃない」。

　父親は母親を見て言いました、「やりたいことだけをやって、生きていく訳にはいかないんだ。もしやりたいことだけをやっていたら、死んでしまうぞ。私を見てみろ、生まれてからずっとやりたくないことばかりやってきたんだ !!」。　私は思いました、「バビットの文章そのままじゃないか」。　それが至福を求めたことの無い人なんです。
　もし、その人が世の中で成功していたとしても、やりたくないことばかりやってきたとしたら、その人生に何の意味があるでしょうか？

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　至福を求めるべきなんですね？
キャンベル　：
　求めれば、至福に到達します　―結婚がそうです、結婚式はこれを表しています。中世の頃、イロイロなものの象徴としてよく用いられたのは、糸を紡ぐ紬車（つむぎぐるま）です―　それは「運命の紬車」です。紬車には中央の軸の部分と、縁（ふち）の輪の部分があり―　もしアナタが縁の部分にいたら、車が回るにつれ上がったり下がったりします、でも中央にいれば、動くことはありません。
　「健やかなときも、病めるときも」という結婚の誓いは、このことを意味しています。「運命がどう転がろうと、わたしは揺るがず、アナタと共に生きます」ということです―　「私の至福は、アナタそのものであり、アナタの富でも名声でも無いからです」。

　私が至福や、喜びについて考えるようになったのは、サンスクリット語の影響です。サンスクリット語は、非常に精神的な言葉です―　古代インドの人びとは既に超越的な存在について、すべてを知っていたんです。サンスクリット語には、超越の大海原へ私たちを連れて行ってくれる３つの言葉があります―　「存在」「完全な意識」「歓喜」　という意味の言葉です。
　私はこう考えました、「自分の存在が妥当なものかどうかは分からない。自分意識が完全なものかどうかも分からない。でも私の歓喜がドコにあるかは分かる―　だから歓喜を手放さずにいれば、それが私の存在と、完全な意識をもたらしてくれるだろう」とね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先生の歓喜とは？
キャンベル　：
　子供の頃は、インディアンについて調べたり、考えたりすることでした。やがて神話的なものや、芸術や音楽に喜びを感じるようになりました。そしてダンサーだった妻のジーンに出会うと、ダンスも喜びになりました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　至福に触れることは詩人だけでなく、誰にでも可能なんですね？
キャンベル　：
　詩人というのは、至福に触れることを自分の生き方にしている人のこと、職業にしている人です。しかし大抵の人は、他のことを気に掛けなくてはいけません―　経済や政治の活動をしたり、戦争に駆り出されたりしています。そういう状況の中で、どうすれば至福という、いわば命綱を掴んでいられるでしょうか？
　その方法は、ひとりひとりが自分でなんとか編み出さなくてはなりません。しかし、目先の関心事の次元にいる大多数の人びとも、至福という別の次元に到達するための、潜在的な能力を持っているんです。私は学生たちを教えていて、このことを実際に見てきました。

　私はサラローレンス大学で38年間教えましたが、少なくても２週間に一度、学生の一人一人と個人的に話をしていました。そこで読むべき本の話などをしている内に、突然、真にその学生の心を掴むものにぶつかることがあります。
　彼女の目は見開かれ、顔つきは変わり、人生の可能性が開けたのが分かります―　至福を見い出したんです、自分の人生を見つけたんです。それを手放さずに生きて欲しいと、私は願ったものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ひとはなかなか至福を見つけられません。どうすればいいんでしょうか？
キャンベル　：
　日々、イロイロな体験をする中で、ふと分かる瞬間があります―　自分の喜びは何かが直感的に分かるんです、それを掴むことです。それは他人にはわかりません―　自分自身で見極めるしかありません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私は至福を追及していると、ときどき見えない手に助けられていると感じるんですが？
キャンベル　：
　あぁぁぁ私も…　いつもそう感じます。実に不思議ですね、いつも目に見えない手に助けられるので、こう信じるようにすらなりました、「至福を追い求めれば、私たちは初めから自分が進むはずだった道を、進むようになる。そしてどういう訳か自分が送るべき人生を、送るようになる」とね。
　「至福の世界」にいる人びと（？？）と知り合うようになると、彼らはアナタのために扉をあけてくれます。ですから恐れずに至福を追い求めるんです―　そうすれば、思いがけないところで、扉が開くでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　見えない手によって助けらるという感覚を持たない人もいますね。
キャンベル　：
　ええー、それを、感じない人もいます。そういう人には同情を覚えます―　可哀相なひとです。すぐそこにある至福という永遠の命の泉に気付かず、つまづきながら歩いている人を見ると、気の毒に思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　すぐそこに…永遠の命の泉が？（キャンベル：　そうです。）
　本当に？（キャンベル：　スグそこにあります。）
　そことは？

キャンベル（力説）　：
　どこにでも―　です。至福という永遠の命の泉は、いつでも、どこにでも、見つかるんです。

返信
- 健康オタクなMr.K より:
  
  2016/01/01/ 09:22 9:22 AM
  
  熊さん今年も宜しくお願いします。
  毎回力作をコメントしてくださり感謝しています。
  しかし、こんな大作はコメント欄にはもったいないのではないかという気がものすごくします。
  
  返信
  - ホロヨイ熊より:
    
    2016/01/01/ 09:33 9:33 PM
    
    お気遣いいただき、ありがとうございます。
    偶然この６回シリーズものの動画を見つけまして、ＵＰ日を見るとランダムに削除されては再ＵＰという状況のようだったので、いつも見に行くMr.Kさまのブログに書き起しをＵＰさせていただいちゃったのですが、これが元で御心配をおかけするのは本意ではありませんので、えーどうしましょうか？
    
    返信
    - 健康オタクなMr.K より:
      
      2016/01/01/ 10:43 10:43 PM
      
      コメントは大歓迎ですので、こちらとしてはまったく問題ありませんし、ありがたいです。
      
      返信
アラガイ熊より:

2016/01/03/ 11:11 11:11 PM

　あたたかい言葉をいただき感謝いたします。可能なら、併せて「第５回」をＵＰしたいのですが、マダやっつけ（仕事）感の滲む出来なので、お急ぎの方は、下記をお勧めいたします。

（書籍　：今回の両氏の対話を、番組より詳細に掲載しています）
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90368.html

返信
アラガイ熊より:

2016/01/09/ 01:29 1:29 PM

神話の力「第５回　愛の女神」（1994年2月放送）

（吟遊詩人？シェイクスピアみたいな頭・衣装の男が歌い、２人が弦楽器演奏。）

　瞳を通して、愛は心に届く―　瞳は「心の使い」なのだから。心が望み、心が喜ぶものを、瞳は探そうとする。瞳と心が調和して１つの決意にいたるとき、その時こそ瞳が心のために迎えたものから、完璧な愛が生まれる。真の恋人たちなら誰でも知っているように、愛とは完全な優しさなのだから。それは疑いも無く、心と瞳から生まれる。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　ジョーゼフ・キャンベルの非常に感銘深い作品のひとつに、「愛の神話」というエッセイがあります。彼は、そこにこんな言葉を書き記しています。
「愛―　この普遍的な神秘を紐解くことで、ひとは何という素晴らしい世界を見い出すことだろうか」。

　確かに愛の物語は、ひとを魅了します。ジョーゼフ・キャンベルは大きな情熱を傾けて、古今東西さまざまな愛の物語や伝説を読み解いてきました。古代インドの教えや、旧約聖書、キリストの生涯、中世の神秘主義、そしてウイリアム・ブレイクやトーマス・マンなどの作家にまで彼は言及しています。
　ジョーゼフ・キャンベルが「最も偉大なラブストーリー」と呼ぶのは、中世の吟遊詩人たちが歌った物語でした。吟遊詩人は気高く優しい魂が生む、肉欲だけに留まらない男と女のロマンスとしての愛を称えました。それは教会の権威とか伝統的な身分に囚われない、個人と個人の関係であり、現代に続く西洋独特の意識もそこから始まったといえるのです。

☆　　第５回　愛の女神　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　愛について、お伺いします。（キャンベル：　いいでしょう、愛について）
　しかしこれはあまりにも大きなテーマですね、「愛について」と言っても、一体どこから話を始めたらいいのでしょう？
キャンベル　：
　私なら、12世紀の吟遊詩人から話を始めます、それでいかがでしょう？（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　なぜ吟遊詩人なのですか？）
　現在、私たちが普通に考えているように、愛を「個人と個人との関係」として最初に捉えたのが彼ら吟遊詩人だったんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ロマンスとしての愛ですか？
キャンベル　：
　ええ。自分の魂の半分が、誰か他の人間の中にあるという認識、そこから生まれる魂をひとつにしたいという欲求―　吟遊詩人はそういうことをハッキリと歌いました。そして、こうした考えは今日まで受け継がれています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　吟遊詩人以前の愛とは？
キャンベル　：
　それはエロス（性愛）でした　―エロスとは人間を性欲へと駆り立てる神です。このエロスに表される愛の概念は、恋に落ちて愛が芽生えるといった「特定の個人対個人の営み」ではなかったのです。私のエロスの定義は、エロティックな生物学的衝動ということで、それはお互いの肉体への欲求です―　そこでは個人の人格など関係ありません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それがエロスの特徴ですね？
キャンベル　：
　エロスとキューピットは同じ神です、またインドでは愛の神はカーマと呼ばれます。カーマはキューピットとは違い、大きく頑健な若者ですが、やはり同じように弓矢を持っています。そしてカーマが持つ矢には、名前が付いているんです　―「死をもたらす苦痛」とか、「解き放つもの」といった名で、カーマはその矢を人間に撃ち込みます。その結果、人間にいわば性的衝動が起きるというわけです。
　エロスに対して、アガペーという愛もあります。アガペーとは精神的な愛であり、「汝の隣人を愛せ」というキリスト教的愛のことです。大切な愛のあり方ですが、アガペーもエロスと同じように相手を限定しません―　隣人、つまり全ての人を愛せと言ってる訳ですからね。

　純粋に個人的な営みとしての愛、瞳と瞳が見つめ合って生まれるような、ロマンスとしての男女の愛は、だから吟遊詩人と共に始まったのです。それは、生きる上での理想でした。
　それまでの伝統文化の中で、結婚は家族によって取り決められていました―　結婚は、個人と個人の問題ではなかったのです。現在でもそうした形は、世界の多くの場所で見られます。ただ、そうした個人の意思によらない結婚に「愛が無い」とは決して言えないのです―　そこには夫婦愛があり、家族愛があり、性生活もあります。ですから中世においては、こうした結婚だけが教会によって認められていました。「個人対個人」の結婚―　という考え方は、非常に危険なものとされていたんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　正統的ではなかったわけですね？
キャンベル　：
　「異端」の考えであり、死を以って罰せられる罪―　つまり姦淫だったのです。たとえばトリスタンの物語、あの厳しい恋の物語、（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　トリスタンとイゾルデですね）ええ、こんな物語です。

　―イゾルデはマーク王と結婚することになっていましたが、二人は顔を合わせたことも無かった。イゾルデの母親は、二人が本当に愛し合えるようにと、惚れ薬を用意していた。そんなイゾルデを迎えに来た王の使者が、トリスタンだった。トリスタンとイゾルデは、用意されていた惚れ薬を間違ってワインだと思って飲み、恋に落ちてしまう。
　そのことに気付いたイゾルデの乳母は、トリスタンに向かってこう言うんです、「あなたは御自分の破滅を飲んだのですよ」。それにトリスタンはこう答えました、「お前の言う破滅がこの恋の苦しみのことならば、これこそ僕の人生だ。それとも破滅とは見つかったときに受ける罰、つまり死刑のことならば、僕はそれを受け入れよう」。そしてトリスタンは更に続けてこう言います、「あるいは破滅とは、地獄の炎に焼かれる永遠の罰であるなら、それさえも僕は受け入れよう」。―

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　大したものですね。地獄は文字どおり信じられていましたよね？（キャンベル：　中世のカトリックではね）　重みが違いましたね？
キャンベル　：
　そんな時代に、愛が苦痛や死をも超越して「すべてに勝る」と言ったわけです―　苦痛を甘んじて受けようとしました。
　
ﾓｲﾔｰｽﾞ：　苦痛もタダの苦痛ではない、地獄で永遠に続く苦痛です。それでも愛のために苦痛を受けることを選んだ。愛の形が変わったんですね。
キャンベル　：
　人生で幸福を追い求めるとき、こうした愛の選択が必要になります。何ものをも恐れない気持ちが大切になるのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　西洋の社会において、個人が自分の決断によって行動するということが、この頃から始まったというわげですね？
キャンベル　：
　その通りです。東洋の物語にもトリスタンに似た話はありますが、社会のシステムにはなりませんでした。しかし西洋の社会では、愛の理想的な形として広く行き渡って行きます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　個人と個人の愛？
キャンベル　：
　ええ、それは非常に不可解なものです―　火花のようなものから始まり、吟遊詩人が歌ったような苦しみが続く。愛の苦しみ―　医者には治すことができないものです、その傷を与えた者だけが、その傷を癒すことができます。
　傷というのは、愛の苦しみであり、情熱の痛みです。その痛みを取り除けるのは、痛みをもたらした相手だけです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまり、私たちはしばしば愛する相手を、誰よりも傷つけるということなんでしょうか？
キャンベル　：　（苦笑）まあ・・・そうとも言えると思います、逆説的ではありますがね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　リビドーというのは？（キャンベル：　「生きよう」という衝動です。）
　どこから来るんです？（キャンベル：　心からです。）　では心とは？
キャンベル　：
　心とは、他の人に対して開け放つ体の機能です―　そこが動物とは違う人間の特質です。心があるからこそ、私利私欲を離れることができるんです。「他の人に開け放つ」というのは「心を開く」ということで、それこそ吟遊詩人が称えたものです。心を開くことが大切なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　中世において個人と個人とが愛し合うには、勇気が必要であり、それは伝統に立ち向かう勇気にもなったわけですね。そして西洋の社会の発展にも貢献したと。
キャンベル　：
　個人を重視するという考えが、西洋の社会に根付くことになったのです。他人から聞いて覚えた言葉を、自分のもののように語るのではなく、自分自身の経験を信じるべきだと考えるようになりました。
　画一的で自由の無い体制に対して　―人間性とは何か、人生とは何か、価値とは何か―　そうしたことを、個人の経験を元に問い掛けられるようになったのです。

○　神を最も愛したもの、それは悪魔だった

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神の愛と、「ロマンスとしての愛」の関係は？　神話では「ロマンスとしての愛」と、神を結び付けているのでしょうか？
キャンベル　：
　それこそ神話の役割でした。また吟遊詩人も「愛は神の恵みだからこそ、結婚に勝るものだ」と考えたのです。神が愛ならば、愛は神だと言えるでしょ？

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　新約聖書には「愛はすべてを忍び、すべてを耐える」とあります。
キャンベル　：　愛は苦痛だが、愛に苦痛は無いとも言えます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　　私の好きな神話があって…、ペルシャのものなんですが、それは悪魔が地獄に落とされたのは、神をあまりにも愛しすぎためだという話なんです。
キャンベル　：
　ええ、大変興味深い神話ですね、「悪魔は、神を最も愛した者だ」という訳ですから。ではそれなのにナゼ、地獄に落とされてしまったのでしょうか？
　悪魔、つまりサタンは元々天使でした。神はまず天使を作り、神だけに仕えるように天使たちに言いました。それから神は人間を作った―　神は人間を天使よりも高等なものと見なし、天使たちに今度は人間たちに仕えるように言いました。しかしサタンだけは、人間に仕えようとはしなかったのです。

　キリスト教の伝統的な教えでは、サタンが人間に仕えようとしなかったのは、サタンの利己主義のせいだとされています。しかし見方を変えれば、サタンは神をあまりにも愛していたために、神だけにしか仕えることができなかったのです。
　そんなサタンに神は「消え失せろ、地獄に落ちろ」と言った。恐ろしい地獄の苦しみの中で、何が最大の苦痛かと言えば、それは愛するものの不在、つまり神が身近にいないということなんです。

　では悪魔はどうやってその地獄の苦痛に耐えたのでしょうか？　「地獄に落ちろ」と言われた時の、こだまする神の声を思い出すことで、悪魔は地獄に耐えたのです。これこそ、大いなる愛だと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そうですね、人生においても愛する者から引き離されることほど、苦しみに満ちた地獄はないと思います。だからこそ私はこの神話が好きなんです―　神を最も愛した者は悪魔だった。
キャンベル　：
　そう、悪魔にとって神から引き離されることこそが、地獄だったわけです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先生は以前、イエスの言葉について論じたことがありました―　そのとき「汝の敵を愛し、汝を虐げる者のために祈れ」という教えこそ、キリスト教の中で最も気高く、崇高で際立ったものだ―　と仰いました。今でも、そう思われますか？
キャンベル　：
　キリスト教の教えの中心となるのは「汝の敵を愛せ」だと思っています。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　難しいことですね。）ええ、確かに難しい。
　受難が目前に迫るとき、イエスは弟子たちと共にゲッセマネの園にいました。そこにイエスを捕らえようという者たちがやって来ます。弟子のペトロは剣を抜き、敵の耳を切り落としました。イエスは「剣を鞘に収めよペテロ」と言って、男の耳を元通り治したのです。

　このエピソードは重要です。キリスト教の教義の中心はアガペー、つまり敵に対する真実の愛だと私は思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どうすれば敵を愛せるのでしょう？　敵にやりたい放題させるのですか？　攻撃を甘んじて受け入れるのですか？
キャンベル　：
　敵の目の小さなホコリを取るより、自分の目の大きなゴミを取り除くこと、分かりますか？　例をあげましょう。
　私の友人にチベットから来た若い僧侶がいます。チベットの状況は御存知のことと思います―　1959年、中国共産党の軍隊はチベットの都ラサで、ダライラマの宮殿を爆破しました。都は破壊され、人びとは虐待されました。ラサには数多くの僧院があり、そこには5000～6000人もの僧侶がいたのですが、殺されたり拷問にかけられたりひどい弾圧を加えられました。

　私の友人の僧侶は、命からがら逃げ延びたのです。驚くべきはその若い僧侶の口から、中国を避難する言葉は一切聞かれないということなんです。そもそも彼には中国を憎んだり、責めたりする気持ちがまったくありません　―おそらくインドに亡命したダライラマその人の心も同じだろうと思います。
　とてつもない暴力の被害者でありながら、恨みというものが全く無い。これは彼らの精神、彼らの信仰のゆえなのです。私は彼らから「信仰とは何か」を学んだ思いがします。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どの文化圏の神話でも「苦しみとは人生の一部であり、苦しみを避けることはできない」と言っているんでしょうか？
キャンベル　：
　ええ、それは断言できると思います。「苦しみを知らずに生きていける」と言っている神話に、出会ったことは一度もありません。神話は人生の苦しみをどう理解し、どう耐えるかを教えてくれるものなのです。
　仏陀は苦しみや悲しみから逃れる術があると語りました―　それはニルヴァーナ、即ち涅槃です。涅槃とは、欲望や恐怖に動かされない心のあり方のことです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　現実に可能ですか？（キャンベル：　可能ですもちろん。）
　人生は、どう変わります？（キャンベル：　調和し、集中し、肯定的になります。）
　苦しみがあっても？
キャンベル　：　ええ、そうです。

○　神話の神々とは、人間のことである

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　ジョーゼフ・キャンベルは、愛の物語を探究してヨーロッパを旅しました。その旅の中で彼はいくつもの大聖堂を訪ねています。大聖堂はイエス・キリストの母、聖母マリアの愛と栄光を表すものなのです。女性の力に対する尊敬の念は、古代神話の重要なテーマにもなっています。
　古代の農耕社会では、女性は穀物の栽培と収穫に参加し、経済的に大きな貢献をしていました、また女性は命を産み、育む母として、大地の象徴でもありました。家父長制度が出現する以前には、女神の黄金時代もあったと言われています。

　最近では、古代の女神ガイアの名が、科学者の間で甦っています。地球全体をひとつの生命体と見て、それをガイアと呼ぶのです。さてジョーゼフ・キャンベルは神への愛が、母なる女神への愛を意味した時代に私たちを導いてくれます。彼にとってこのテーマは、「処女降誕」というひとつのイメージに集約されます―　それは「精神の誕生」を意味することになるのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　主への祈りは「天にまします我らの父よ」という言葉で始まりますね。ナゼ「我らの母よ」ではないのですか？
キャンベル　：
　これは象徴的イメージなんです。チチというのが、実際の父親でないことをハッキリさせるために、「天にまします我らの父よ」となっている訳です。また、天というのも象徴的な概念です。天国とはどこにあるのでしょう？　探してもムダです―　この言葉が表すのは具体的な場所ではないのですから。
　宗教的、神話的イメージというのは人間の心、つまり意識とか蓄積された経験とかに関係しています。そして神話のイメージは、私たちの存在や根源についての神秘を思い起こさせるものなんです　―そのとき母というのは重要な役割を果たします。誰もが母親から生まれるわけですから、母こそ源であり、母こそ親なのです。父親よりももっと直接的な親ということです。

　どんな子供にとっても最初に接するのは母親ですから、女性のイメージが世界のイメージになります。神話とは、単純に「世界を母親のイメージへと変化させたものだ」とも言えるでしょう。「母なる大地」という言葉にも、それが表れています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　つまり原始社会では崇拝の対象として、あまり父という存在は登場しなかった。「偉大なる女神」「母なる大地」に大きな敬意が払われていたわけですね？
キャンベル　：
　それは農業と、農業に基づいた社会の在り方と関係しています。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　実りをもたらすということですか？）　つまり、大地との関係です。大地が植物という生命を生み出すように、女性も生命を産む存在です。そして大地が生命を育むように、女性も子供に栄養を与え、育てます。大地の働きと女性の働きは、深いつながりのあるもの、もっと言えば同じものとして捉えられていたのです。命を生み育てるエネルギーを擬人化すれば、当然女性になります。
　古代の、さまざまな像を見ると、主なものは全て女性です。古代メソポタミアやエジプトのナイル沿岸の農耕社会、またもう少し古い社会を見ても、神話で大切な役割を果たすのは女神像だということが分かります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　もし、いつの時代かに「我らの父よ」という代わりに「我らの母よ」と祈り始めていたら、どう違っていたでしょう？
キャンベル　：
　文化の性質という面で、違いが生じていたハズです。歴史を遡れば、初期の文明はいずれも大河のほとりに誕生しています―　ナイル、チグリス、ユーフラテス、インドではインダスそしてガンジス、これらの川はみな女神の名前をもとに名付けられています。こうした川のほとりは、女神の世界でもありました。
　文明が誕生し、その後侵略が始まりました。当時「侵略者」とは家畜を飼っていた人のことでした。たとえばセム族は、山羊と羊を飼っていました。インド・ヨーロッパ語族（以下、印欧語族）の場合は牛を飼っていました。狩りをする生活から、家畜を飼う生活へと変わってきたわけです。

　つまり狩猟民の神話は、遊牧民の神話へと変わったわけですが、いずれにせよ動物との関わりは続いています。家畜を飼い、常に移動して暮らしていれば、他の民族との衝突もあるでしょう、戦いも始まるでしょう。そうした中から、ゼウスや、ヤハウェのような戦いの神が生まれてきたのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　祈りではなく、剣と死がもたらされたのですね？
キャンベル　：
　聖書の時代、ヘブライの（改宗した）人びとの中には、それまでの女神に対する強い反発があったようです。旧約聖書を見ても、女神は「忌まわしきもの」とまで呼ばれています。それは印欧語族には見られなかったものです。全能の神ゼウスが女神と結婚して、一緒に遊んだりするような神話は退けられました　―聖書の中にそんな話は絶対出てきません。
　そして私たち西洋人は、聖書の影響を強く受けています。西洋の社会で女性が従属的なのは、キリスト教の影響だと私は思っています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話の中で女性の地位と男性の地位が代われば、文化の傾向も変わり、人びとの心理も変わるのですか？
キャンベル　：
　女神がいなくなった影響は大きいと思います。男性が上位を占め、女性がその下に置かれたなら、それが神話の中の物語であろうと、実際の社会のシステムは変化していることでしよう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　自分たちの神々に倣うことは、社会にとっても当然のことですからねえ。
キャンベル　：
　ええそうです、３つの状況があると思います。まず、全くの女神だけの世界―　男性は神としての重要性を持たず、女神だけ絶対的存在だという状況です。次に男性の神が絶対的な場合―　女神の役割を男性の神が全て引き受けてしまっています。そして最後に古典的な状況があります―　それは女神と男性の神が相互に影響しあっているという状況です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　いま女性たちの中には「女神はもう5000年もの間、追放されたままだ」と言う人もいます。
キャンベル　：
　5000年と言うのは大げさですね。女神は紀元前２～３世紀のヘレニズムの時代、地中海地方で強い力を持っていました。そしてローマ・カトリックにおける処女マリアの中に受け継がれています。１２～１３世紀にかけて女神はフランスの荘厳な大聖堂で大いに称えられたと云います。聖母寺院、ノートルダムとは文字通り「我らの聖母」という意味です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「処女降誕」というのは、どう解釈したらいいのでしょう？女神はここで、純潔と貞淑の象徴となったのでしょうか？
キャンベル　：
　西洋の宗教の歴史の中でも、これは非常に興味深い展開です。「処女降誕」はギリシャの伝統から来たものなんです。新約聖書の４つの福音書で、ハッキリと「処女降誕」に触れているのは、ギリシャ人であるルカの福音書だけです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ギリシャには処女降誕の伝説や神話が、以前からあったわけですね？
キャンベル　：　そう、処女降誕の話はギリシャ神話にいろいろ出てきます。「レダと白鳥の物語」「ヘルセポネとヘビの物語」もそうです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　イエスが最初ではなかったんですね？
キャンベル　：
　ええ。では「処女降誕」の意味を考えてみましょう。それにはインドに伝わるある考え方が参考になります―　それは人間の精神の発達のシステムを説いたものです。人間には脊椎に沿って、いくつかの中枢があると云われているんです。それぞれの中枢は、関心や意識や行動といった人間の心理の水準を示しています。
　最初の水準は直腸の所にあって、ここは栄養の摂取を司ります。この中枢はヘビによって象徴されています―　何かを常に食べ続けるといったイメージです。確かに私たちは物を食べずにはいられません。２番目の中枢は性器の所にあって、ここは生殖を司っています。

　そして３番目の中枢はヘソの所にあります。ここも食べることに関係する中枢です。食べて消費する、それはまた他者を支配し打ち砕き、破壊することにもつながります。つまり３番目の中枢は、人間の攻撃的な面を象徴しているんです。ここまでの３つの中枢は、どれも動物的本能を表しています　―栄養摂取、生殖、攻撃、みな動物としての本能に関わるものです。そしてこれらの中枢が３つとも、骨盤の所に位置している点に注目すべきでしょう。
　さて次の４番目の中枢ですが、これは心臓の所にあります。ここはまさに心を司るところです。ここに来て、ひとは動物の域を脱して心を持った人間の水準に達するわけです。この第４の中枢を表すのに、男性と女性の性器が結合した形が使われているのが非常に象徴的です。つまりここに「処女降誕」の意味を読み取ることができるのです―　それは動物的人間から精神的人間が生まれるということです。

　ひとは動物ではあるけれど、「心を持っている」というところが違います。心を持つこと―　それが「処女降誕」の真の意味だと思います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　心を持つということは、つまり・・・
キャンベル　：
　他の人に対する思いやりを持つということです―　慈悲の心、慈愛の心に目覚めるということです。他の人の苦しみを、我がこととして知ること―　宗教というものも、そこから始まります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかし「処女降誕」というのは、神が生まれることではないのですか？　神話や伝説の中では、処女降誕によって必ず神が現れてきていますが…
キャンベル　：
　そうですよ、でもその神とは、何を指すか分かりますか？　それは人間のことなんです、私たち人間です。神話に登場するのはすべて、人間なのです。神々は人間を象徴しているのです―　人間は天国を思い、（キリスト教徒なら）イエスが受けた苦しみを思います。しかし苦しみは本来、人間が受けるべきものです―　動物ではなく、心を持った人間が苦しみを知るのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ナゼ処女から生まれることに意味があるのでしょう？
キャンベル　：
　精神とか心といったものの誕生を象徴しているからです。処女マリアは、精霊によって聞いた神の言葉でイエスを宿したことになっています。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「神の言葉は、一条の光のように届いた」
キャンベル　：
　そうです、また「仏陀は母親のワキの下から生まれた」と伝えられています　―先ほどお話した「心を司る中枢」のすぐそばです。これも大変象徴的です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかしキリストは私たちと同じように生まれてきましたよね？
キャンベル　：
　ええ、しかし処女から生まれました。それにローマカトリックの教義によれば、マリアの処女性は復元されたという。つまり肉体的には、処女のままだったということです。これによっても「処女降誕」というのは、肉体的な出産ではなく、心が生まれること、精神がより高い次元に到達することを象徴していると言えるでしょう。神というのは、慈悲と慈愛の心を持った人間の代表なのです。

○　聖母マリアの原型は、エジプト神話にある

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　救世主を産む母親、つまり聖母のイメージは古代の神話にも見い出すことができるでしょうか？
キャンベル　：
　私たちが持っている聖母のイメージの原形となったのは、エジプトの神話に登場する、息子ホルスを胸に抱いたイシスの姿なのです。女神を中心にした最も初期の神話です。こうした物語は各地に伝えられています。
　女神が、亡くなった夫か若しくは恋人を捜して黄泉の国に降りていき、その忠節と勇気によって彼を生き返らせる―　という話です。さてイシスの物語をお話しましょう。

　―イシスとその夫オシリスは、女神ヌートから生まれた双子でした。女神ヌートのもとには、このオシリスとイシスの他にもう一組・双子が生まれます―　セトとネスチフです。あるいきさつから、弟セトは兄オシリスに恨みを抱き、殺害の計画を立てます。弟セトは秘かに兄オシリスの体のサイズを測り、オシリスにピッタリの石の棺を作らせました。
　ある日、神々の間でパーティが開かれたとき、セトはそこに例の石の棺を持ち込み、こう言います、「この棺にピッタリと体の合う人がいたら進呈しよう」。みんなが順番に試していき、ついにオシリスが棺に入りました―　当然、彼にはピッタリです。そのとき、セトの仲間が７２人も駆け寄り、棺のフタを閉じ、皮ひもで縛り上げました。そしてオシリスの入った棺は、ナイル川に捨てられたのです。

　オシリスは死にます。しかしオシリスは神ですから復活することができるハズです―　オシリスはその時を待ちます。オシリスの棺はナイル川を遠く下っていき、最後にシリアの海岸に打ち寄せられます。そこには非常に美しい木が、生えていました。オシリスの石の棺は、この美しい木に取り込まれ、やがて一体となりました。
　その辺りを治める王は、ちょうど息子の王子が生まれるにあたって、宮殿を新築することになっていました。オシリスが封じ込められた木は、素晴らしい香りを放っていたために、王はその木を切らせて宮殿のメインルームの柱とするのです。

　さて夫をナイル川に捨てられた可哀相なイシスは、旅に出ていました―　夫オシリスを捜す旅です。ついにイシスは宮殿の建つ土地にやって来て、その中の素晴らしい香りを放つ柱のことを耳にします―　イシスはその中にオシリスがいることを感じるのですねぇ。
　イシスは生まれたばかりの王子の乳母として、宮殿に入ります。イシスは指先から王子にお乳をやっていました。イシスはこの子を大変愛したので、永遠の命を与えようと決めます　―イシスは女神ですからね。赤ん坊を暖炉の火の中に入れ、いづれ必ず滅びる肉体を徐々に焼き払っていく　―こうして永遠の命を授けるわけです。そして赤ん坊が火の中にいるとき、イシスはツバメに姿を変え、夫の眠る柱の周りを悲しげに飛び回っていました。

　しかしある晩、赤ん坊の母親がその場にやってくると、母親は暖炉の中の我が子を見て悲鳴を上げ、それで魔力が破られてしまう　―急いで子供が焼け死ぬのを救わなければなりませんでした。イシスはツバメの姿から、元の姿に戻り、赤ん坊の母親に頼みます、「あの柱の中にいるのは、私の夫なのです。どうか夫を連れ帰ることを、許してもらえないだろうか」。そこに王がやって来て、イシスの願いを聞き入れます。柱は引き抜かれ、イシスに与えられて船に積まれました。
　ナイルに戻る途中、イシスは石の棺のフタを外し、そして死んだ夫の上に身を預けるのです―　こうしてイシスは、夫オシリスの子を宿すわけです。これは「死の中から生命が生まれる」というイメージを表していて、エジプト美術によく見られるものなんです。さて、イシスを乗せた船がようやく岸に着きます。そしてイシスはパピルスの茂る沼で、死んだオシリスの傍らで息子ホルスを産みました。―

　・・・このイシスの物語が、聖母の原形となったものなんです。エジプトでは、イシスは玉座を象徴するものとされています（玉座の装飾にイシスの彫刻が施されている）―　母親の膝に子供が座るように、王ファラオが女神イシスの玉座に座るわけです。一方フランスのシャルトルの大聖堂（の装飾の彫刻）には、ちょうど玉座のような聖母マリアとその膝の上の、世界の王のようなイエス・キリストの像があります　―まさにエジプトのイメージと共通するものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　キリスト教徒が、そのイメージを取り入れたんですね？
キャンベル　：
　そうです、彼ら自身がそう言っています、過去においては単なる神話の像でしかなかった姿が、今や我われの救い主の中に復元され、現実のものとなっている―　と書かれた文献もあるくらいです。救い主に関する古い神話も存在しています―　死んで、そして甦った神についての物語です。そうした復活の神話は、月と深い関わりを持っています　―いわば月は、１ヶ月ごとに一旦死に、３日の暗黒を挟んで、再び甦ります。キリストも３日間、墓の中にいて復活しています　―月の動きと一緒です。
　またクリスマス＝キリストの誕生日　が（実際には）何時だったかは誰にも分かりませんが、12月25日＝冬至の日　に設定されてきました。それはこれから夜が短くなり、昼が長くなる日、つまり「光の生まれるとき」です。私たちの心の中にはいつでも「過去は死に、未来が生まれる」という概念があります　―肉体的には死んでも、精神的には生きているといったシンボルも、同じことを物語っているのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは、つまり…
キャンベル　：
　女神こそが復活を司るのです。復活―　つまり２度目の誕生は、新たな母によって起き、ノートルダム寺院やシャルトル大聖堂など「母なる教会」を訪ねるたびに、私たちは生まれ変わるのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは肉体的な意味ではないですよね？（キャンベル：　精神的にです。）
　女性に特有の力があるということですか？
キャンベル　：
　そうとも言えますが、必ずしも女性でなくても良いんです、男性を通して再生することもできます。ただこのシンボル体系では、女性が有力となりました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　新約聖書に「イエス・キリストには男も女もない」という素晴らしい言葉があります―　突き詰めれば、性別は関係ない？
キャンベル　：
　そうですね、もしイエスが私たちの存在の源を象徴するものなら、私たちすべては…いわばイエスの心の中の思いだと言えます　―あるいはイエスは私たちの血肉となった言葉だとも言えます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先生も私も男性女性、両方の性質を併せ持っているわけですね？
キャンベル　：
　ええ、その通りです。「陰と陽」という考え方が中国にありますが、そのシンボル（下記リンク）は非常に示唆に富んでいます―　暗いものの中には明るい点があり、明るいものの中には暗い点がある、そして互いに深い関わりを持っている。
　人間と神との関係も、これと同じです。神は決して「私たちの外」にいる存在ではありません―　そんな神に心を通わせることができるハズがありません。神と人間は一体となって存在しているのです。
http://www.google.co.jp/search?q=陰陽&tbm=isch

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ここまでお話を伺ってきても、まだ解けない疑問があります。知恵を持った人たちは、精神的に生きることを学べば良い人生を送ることができると言いますね？　しかし生身の肉体を持った人間が、どうしたら精神的に生きることを学べるのでしょう？　聖書の中でパウロも「肉体の欲求は精神に反し、精神の欲求は肉体に反する」と言っていますが…
キャンベル　：
　古代において、精神的に生きる方法を教えるのが教師の役目でした―　当時の教師というのは、聖職者たちです。聖職者たちが人びとに精神生活への糸口を与えていました。そして宗教的儀式もまた、精神生活のためにありました。
　「儀式とは、神話を演じることだ」と定義できるでしょう。キチンとした正統的な儀式に参加することによって、人びとは神話の出来事を実体験するのです。それによって人は、精神的に生きることを学んでいました。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　神話が精神生活への道しるべなんですね？
キャンベル　：
　ええ、行くべき道を示してもらう必要があります。私たちにはいわば地図が要るんです。そして地図は意外と身近にあるものなんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　女神の物語は、精神を肉体と対等なレベルまで高めるための…地図なんですね？その地図に従えば、肉体と精神を調和させることができるわけですか？
キャンベル　：
　そうです、ひとは大地そのものが持つ「真の神聖さ」に辿り着くことになります―　なぜなら大地こそ、女神の本体ですからねえ。ヤハウェが天地を創造したとき、大地を創り、ひとを創り、命を吹き込みます。しかしヤハウェはそこに存在しません、いたのは女神です　―あなたの体は女神の体と同じなのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人類の未来が、救いが宇宙にあるというのは、どうも信じ切れないんです。この地球上に、私たちの内部にそれがあってもいいんじゃないかと思うんですが？
キャンベル　：
　私もそう思います。ひとが宇宙に行くとき、その肉体が精神に目覚めていなければ、たとえ宇宙へ行っても目覚めることはできません。ただ宇宙は、なにかのヒントを与えてはくれるでしょう。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先生の著書の中に、宇宙についての素晴らしい一説があるんですが、ご自身で読んでいただけませんか？
キャンベル　：
　世界地図帳の中にあった銀河の図―　私はそこに、途方も無い規模と、想像もつかない力を併せ持つ宇宙のビジョンを見た。何十億、何百億もの、まさに怒号する核融合炉が互いに火花を撒き散らす。核融合炉のひとつひとつが星であり、太陽もそこに含まれる。星の多くは、自らを粉々に吹き飛ばし、できる限り遠くまでチリとガスを撒き散らす。
　また惑星を伴った新しい星が、今まさに生まれようとする。その遥か彼方から、すべてを超えて伝わってくるさざめき、マイクロウェーブ。それはどんな激変にも勝る大爆発＝ビッグバンのこだまなのだ。―

　そして今、私たちはここにいます。それに気付けば広大な宇宙の中の小さな自分が、いかに大切か分かるでしょう。さらに自分と宇宙が、ある意味ではひとつであり、宇宙の営みすべてに参加していると分かるハズです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それは「ここ」から始まる？
キャンベル　：　そう、ここから始まる。

（ただいま1/9、13:05-13:50
NHK総合でSTARWARSの特撮の番組やってます。）

返信
アラガイ熊より:

2016/01/11/ 11:38 11:38 PM

神話の力「最終回　永遠の仮面」（1994年2月放送）

（モスクでの集団礼拝から、世界の様々な宗教の礼拝シーン）

ジョーゼフ・キャンベル　：
　ひとは全て、神について考える。神は思想であり、概念である。しかしそれは、人間の思考を超越した何か―　である。神は「存在する/しない」とい

う次元を超越している―　存在するとも、しないとも言えない。
　あらゆる神、あらゆる神話、あらゆる宗教には真実がある　―それは「ひとと宇宙の神秘」を象徴するもの― としての真実なのだ。「知り尽くした」

と思う者は無知であり、無知だと思う者こそ真実を知っている。

　神話は、いまも真実である。それは魂の探究の物語だ、自己の「内なる本質」を見い出す物語だ。神話は人に問い掛ける　―お前は生まれ変わったの

か？獣としては死に、人間として甦ったのか― と。
　ひとは最も深い根源において、神である。ひとは神と一体なのだ。

☆☆　神話の力　―ジョーゼフ・キャンベルとの対話　☆☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　神のイメージは数多くあります。それらは超越的存在である神に、「仮の顔」を与えるものであり、いわば「神の仮面」です。人間が神に与えた名前

や姿は、すべて「神の仮面」である―　とジョーゼフ・キャンベルは言いました。
　神話もまた「神の仮面」であり、目に見える世界の背後に潜むものを象徴します。キャンベルは生涯を神話や宗教の研究に捧げ、神がさまざまな文化

において、これほど多様な仮面をつけることの意味を探究しました。

　東洋には、西洋とは全く違う宗教を持つ人びとがいます。いつかキャンベルは、彼をニューヨークに訪ねた若いヒンズー教徒の話をしてくれました。

その男性はこう言ったそうです、「私はアメリカの宗教を知ろうと思い、聖書を読んでいますが、そこには何の宗教も見い出すことが出来ません」。し

かし世界の宗教の経典には、良く似た物語が存在します、例えば「世界の創造」、「処女懐胎」、「死と復活」、「最後の審判」といった物語です。
　キャンベルが翻訳したヒンズー教の経典をひも解くと、こんな結びの言葉があります― 真実はひとつである、それを賢者たちが、様々な名の下に語る

のだ。

　キャンベルは少年時代、ここニューヨーク自然史博物館でイマジネーションを刺激され、神話の世界への旅を始めました。キャンベルが亡くなる数ヶ

月前、その自然史博物館で、私は彼と対談を行いました。

☆　　最終回　永遠の仮面　　☆

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どんな文化も「神を求める」点は、共通のようですね。
キャンベル　：
　そうですねえ・・・、「なぜ人が共通して、神というものを考えるようになるか？」というと、こういうことではないでしょうか。　理解を超える神

秘というものを体験し、畏敬の念を覚えたとき、ひとは誰も「世界には自分の知覚を超えた次元が存在すること」を知ります。古代インドの哲学書・ウ

パニシャッドに、こんな素晴らしい言葉があります― 沈む夕陽や、そびえ立つ山や、そこかしこにある美を目にしたとき、ひとは立ち止まり、思わず声

を上げる。それは神に触れた瞬間なのだ。
　ひとは驚異を体験し、圧倒的な力を体験します。それは自然の中で生きる人間なら、日々感じていることです。そして人は、人間の次元より遥かに巨

大な何か―　が存在することを知るんです。西洋の思想では概ね、神は「エネルギーの源」と考えられています。

　一方、東洋の思想やいわゆる原始的な思想ではほとんどの場合、神は「エネルギーを体現するもの」です、エネルギーの入れ物のようなものです―　

「エネルギーの源」ではありません。そして神の性格は「どんなエネルギーを体現しているか」によって決まります。
　暴力的な神もいますし、慈悲深い神もいます、その両面を持つ神もいます。戦場で王を守る神もいます。これらの神々は暴力、慈悲などそれぞれのエ

ネルギーを体現しているんです。
　では「エネルギーの源」とは何でしょう？私たちを照らすこの光の源は何か―　それは全くの謎です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　さまざまな神、若しくはエネルギーが拮抗しあうなら、無秩序になりませんか？
キャンベル　：
　生きるとは、そういうことです。私たちの心の中でも、何かをしようと思うと葛藤が生じます。例えば人と接するとき、とり得る行動の選択肢はいく

つもあり、拮抗しあっています―　その中から、どれかを選ばなくてはならないんです。その選択は、自分の精神の中にいる神に影響を受けます。それ

が粗野な神なら、自分の選ぶ行動も粗野になります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私たちの内には、様々な神がいるのですね、（精神の中にいる神の）信仰への影響は？
キャンベル　：
　それは・・・難しい問題ですね。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　先生は信仰をお持ちですね、敬虔な心をお持ちです。）
　ええ、でも私にとって重要なのは、信仰ではなく体験です。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どんな体験ですか？）

　私は驚きも体験しましたし、愛も体験しましたし、憎しみや恨みも体験しました。正直に言って、相手のアゴにパンチを食らわせたいと思ったことも

あります。これらの体験は、いわば私の中で働く様々な神々を象徴するものです。
　私は子供のころカトリック教徒として育てられ、「自分の右側には天使、左側には悪魔がいる」と教えられました。自分がどんな行動をとるかは、天

使と悪魔のどちらが強いかによって決まるというのです。あの頃は私にそう教えた大人たちも、それを信じていたんでしょう―　本当にそうだと思って

いたようです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　本当に？）
　ええ、天使と悪魔が実際にいると考えていたんです。天使は「人を善に導くエネルギー」の象徴であり、悪魔は「人を苦しめるエネルギー」の象徴で

す。

　東洋では、神は自然に近いものです―　「自然の力」に近い存在で、人間にはあまり似ていません。私は神を、「様々なエネルギーを表すもの」と捉

えています。そのエネルギーの一部が、愛や憎しみ、慈悲、同情といった人間のエネルギーなんです。先ほど言ったように東洋の思想では、神は「エネ

ルギーの源」ではなく、「エネルギーを体現するもの」です。
　西洋では神を擬人化する傾向がありますが、ひとつ面白い話をしましょう。

　あるとき私はアスレチッククラブのプールにいました、何しろプールですからキチンとした恰好はしていません。そこであるカトリックの司祭を紹介

されました。私はそのころ大学教授でしたが、その司祭もあるカトリック系大学の教授でした。私は泳ぎ終わってからその人の隣に座りました―　アス

レチッククラブ風に全く同等の立場で、隣に並んだわけです。
　司祭が私に尋ねました「貴方は司祭ですか？」、私が「いいえ」と答えると、今度は「カトリック教徒ですか？」、私は「以前はそうでした」。する

と彼は「人間のような性格や姿を持った神というものを信じますか？」、私は「いいえ」。すると彼は「確かにそういう神の存在を論理的に証明するこ

とはできませんね。」

　そこで私は「もし神の存在が理屈で証明できるなら、信仰なんか要るでしょうか？」、すると彼は「今日は楽しかったです」と言って帰ってしまった

（笑）。　私は、柔道で一本取ったような気分でしたよ。
　彼が「人間のような神を信じるか」とわざわざ訊いたのは、人間に似ていない神もありうると思っていたからです。カトリックの司祭が東洋的な、自

然に近い神の可能性を意識していたんです。

○　「円」は始まりであり、終わりである

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　宗教とは何でしょうか？
キャンベル　：
　宗教（ religion ）という言葉は、ラテン語の「再び結びつける」という意味の言葉（ religio ）から来ています。人間を「その源」に再び結びつけ

る―　ということです。
　人間は、ひとりひとり孤立して生きていますが、実は同じ生命を持っています。その分離していた生命を、唯ひとつの生命に再び結びつけるというこ

とです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　先生の友人である偉大な心理学者・ユングはこう言いました、「最も強力な宗教的イメージは、円である。円は、人類の根源的イメージのひとつであ

り、円の形をしたシンボルについて考えるとき、我々は自己を分析しているのだ。」
　先生は永年にわたる研究の中で、数多くの円に出会ったと思います。ステンドグラスもあれば、模様や絵も、建築物もあります　―インドの寺院の天

井、アステカの暦の石、古代中国の青銅の盾（映像は銅鏡か？）、旧約聖書の預言者エゼキエルが空に見た幻の輪・・・、どこにでも円はあります。
キャンベル　：
　そうですね、円は中心です―　人がそこから出てゆき、そこへ戻るようなね。
　私は以前、アメリカン・インディアンとの対話を綴った本を読んだことがあります。1904年に出版されたナタリー・カーチスという人の本です。対話

の相手はポーニー・インディアンの首長だったと思います。その首長がこんな話をしていました、「われわれが野営をするときは、テントを円形に並べ

て張る。地平線を見れば、それも円形だ。鷲が巣を作るときも、円形に作る」とね。哲学者のプラトンも、こう言いました、「魂は円である」。

　円は完全なもの、欠けている所の無いものを表しているといえます。円に囲まれたものは、ひとつの完結した世界です―　これが、円の空間的意味で

す。時間的な意味では、ひとがそこから出て、また戻ってくるところです。円は始まりであり、終りなんです。神が始まりであり、終りであることに似

ています。
　円は時間においても、空間においても、完全なもの・完結したものを表すんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　始まりもなく、終りも無い？
キャンベル　：
　果てしなく回り続けます。１年もそうです、１月から始まって、２月３月４月・・・そして12月まで来ると、また１月に戻り、同じことを繰り返しま

す。一週間もそうです、７つの曜日が果てしなく回り続けます。月の満ち欠けの場合も、同じ変化が繰り返されます。
　１日のサイクルもそうです、毎日同じ時刻が巡ってきて、朝・昼・晩が繰り返されるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　円の形をしたシンボルが、世界中にあるのはナゼでしょうか？
キャンベル　：　
　人間の経験の中に、円が含まれているからです。ひとは毎日、円を経験しています―　例えば「家を出て、狩りや冒険をして、また戻る」という動き

は、円を描いています。そして人は死ぬと埋葬され、母なる大地の子宮に返されますが、それは復活するためです。「生まれ、大地に戻り、また生まれ

る」、円を描いて繰り返されます。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ここに、一枚の絵があるんですが…。
キャンベル　：
　素晴らしい曼荼羅ですね　―中央には力の源であり、輝きの源である仏がいます。その周りには仏の放つ光の表われとして、さまざまなイメージがあ

ります。
　曼荼羅は、悟りの世界を表します。自分自身の曼荼羅を作るためには、まず紙の上に円を描き、自分の様々な感情や価値観を考えてみます。そしてそ

れらの中で、「円の中心に来るのは何か」を見極めるんです。

　つまり人生の雑多な要素を整理して、自分の中心を見い出し、それに合わせて自分を組み立て直すんです。これは自分自身の円を、宇宙の円と一致さ

せるよう努めることです。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　中心を見つけるわけですね。）
　そうです、ナバホ・インディアンには「花粉の道」という考え方があります。花粉は生命の源であり、「花粉の道」はいわば「円の中心」なんです、

―嗚呼（ぁぁ）、私の前は美しい、私の後ろは美しい、右は美しい、左は美しい、上は美しい、下は美しい・・・私は花粉の道の上にいる。

　人間の生命という小さな世界を、宇宙の生命という大きな世界と調和させ、一体化させることは可能です。ナバホ・インディアンは、病気を治療する

ために「砂絵」というものを使います　―地面に砂で描いた絵です。砂絵は、いわば曼荼羅です　―神話的世界を表します。治療を受ける人は、砂絵の

中に入ります―　そうすることで神話的世界と一体になり、力と一体になるんです。
　砂で曼荼羅を描き、儀式に使うのはナバホ・インディアンだけではありません。チベットの仏教寺院でも、僧侶たちが（色砂で）曼荼羅を描きます。

曼荼羅には宇宙のイメージが散りばめられています、それは私たちの生活に影響を及ぼす超自然的な力を表します。その力と一体になることを、彼らも

また目指しているのです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ふたつの全く異なる文化で同じ現象が見られるのは、ナゼだと思われますか？
キャンベル　：
　理由として考えうるのは２つだけです―　第一は、その現象が地域から地域へと伝わっていったというもので、第二は、それぞれの地域で別々に発生

したというものです。もし別々に発生したと考えるなら、「あらゆる人間の精神には、なんらかの共通した力がある」と考えることになります。そうで

なければ、これほど細かい点まで一致することはあり得ないからです。
　深く研究すればするほど、全く異なる文化の間に余りにも多くの類似点があることに驚かずにはいられません。地域や文化などの違いを超え、人間が

共通して持つものの代表が、神なんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　自分と違う宗教を持つ人たちも、同じような願望を持ち、同じようなイメージを追い求めていることが分かると、自分の信仰が強められるような気が

します。　違う信仰を持つ人たちに対して、ずっと親近感を持つようになります。
キャンベル　：
　いたずら好きの神が良いことを教えてくれます。いたずら好きの神は、「自分の姿は真実ではなく、そう見えるに過ぎない」と教えるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その神は、いたずらをしたり人を騙したりするトリックスターのことですね？
キャンベル　：
　その通りです。アメリカン・インディアンの神話には、トリックスターの素晴らしい物語がいくつかあります。その姿は滑稽で道化師を思わせますが

、ときには偉大な神でもあるんです。
　トリックスターはこう言います、「私は絶対的な存在ではない。この体の向こうには何かが透けて見える。私の滑稽な姿の向こうにあるものを見れば

、真理が分かるのだ。もし私が、見るからに偉そうな姿をしていたら、人びとはその姿に囚われてしまっただろう」。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　アフリカにこんな面白い神話がありましたね　―ある神さまが帽子を被って道を歩いていた、右半分が赤、左半分が青の帽子です。神さまを

見た男たちが村に帰って、「青い帽子の神様を見たか？」と訪ねると、道の反対側にいた男たちは「いや、神様は赤い帽子を被っていたよ」と言うので

喧嘩になってしまう。
キャンベル　：
　そう、その神さまは道の途中で「回れ右」をするんだが、帽子もクルリと回す―　だから見える側の色は変わらなくて、男たちの争いは続く。決着を

つけるために男たちが王様の前に引き出されたときに、神様がやってきて言った「悪いのは私だ、私のせいだよ。争いを広めるのが何より好きなもんで

ね」。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　そこにも何か真実が？）　　そうなんです。
　どんな思想も宗教も、神でさえも絶対的なものではない―　ということです。「これこそ真理だ」と思い込んでいると、トリックスターが現れて全て

を引っくり返してしまうんです。

　ユングは興味深いことを言いました　―宗教は宗教的体験を妨げるものである。
　宗教の教義は、全てを概念や思想の枠の中に押し込めようとするので、私たちが神秘的な、超越的な体験をすることを妨げるんです。本当はあるがま

まの神秘的な体験こそ、究極の宗教的体験と言えるもののハズなのにねえ。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「イエスの本質を知るには、キリスト教の教義や教会を退けるべきだ」と考えるキリスト教徒もいますね？　それを「異端」と見なす人も、

多いでしょうが。
キャンベル　：
　イエスのイメージは退けるべきです、神のイメージも邪魔になります―　表面のイメージ（偶像崇拝）に縛られては、いけないんです。

○　永遠は時間を超越し、時間は永遠を遮断する

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　心理学者マズローが言う至高経験や、先生の友人である作家ジェームス・ジョイスが言うエピファニーについてお尋ねしたいのですが。
キャンベル　：
　その２つは同じものではありません。至高経験というのは、その人が最高の幸福と充実を感じる瞬間のことです―　それは自分が、身を持って経験す

る種類のものです。私も自分の人生の中で、至高経験といえるものを何度か体験したことがあります。その時には気付きませんでしたが、後になって「

ああ、あれがそうだったのか」と分かったんです。私の至高経験は、どれもスポーツと関係があります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　中でも最高の体験だったのは、どれですか？　コロンビア大学在学中の陸上レースですか？
キャンベル　：
　ええ、あれが最高です。私はリレーのレースに出場したんですが、実に美しい体験でした。あのとき「自分は勝つ」と思いました、根拠は無いのにね

　―なにしろリレーのアンカーとしてバトンを受け取ったとき、トップの選手は３０ｍも先を走っていたんです。
　でも「とにかく自分が勝つ」と思いました、「今日は誰にも負けない」と感じたんです。私は自分が「完全な存在」になったように感じて、本当に完

璧に走ることができました。人生の中で、あのレースほど何かを完璧にやり遂げたことは、無いと思います　―まさに至高経験でした。あれに匹敵する

経験は、他にはありません。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　では、ジェームス・ジョイスが言うエピファニーとは？
キャンベル　：
　エピファニーは、芸術作品に触れるという「美的体験」に関係があります。美的体験とは、ジョイスの定義によれば「その芸術作品を所有したい」と

いう欲求とは無縁です、またその芸術を批判したり拒絶したりすることでもありません。美的体験とは、対象をひたすら見つめ、把握することなんです

。
　ジョイスはこう言っています、「作品を額縁に入れて、それをひとつのものとして見ているうちに、部分と部分の結びつきに気付き、部分と全体との

結びつきに気付く」とね。これは美にとって重要な要素です。そこにあるのはリズムです。そして芸術家が見事なリズムを奏でたとき、輝きが生まれま

す　―それがエピファニーなんです。

　キリストの誕生も、この輝きのようなものです―　分かりますか？（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「神の輝き」を見るわけですか？）　見る対象は、どんなものでもい

いんです―　美しくても、醜くても、怪物じみた存在でも構いません。それは、この世での美的判断に過ぎず、エピファニーはそういうものを超越して

います。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　その点は異論がありますね、見つめる内に感じる輝きがエピファニーなら、その見つめる対象は、何らかの意味で「美しい」もののハズです

。さきほど至高経験のことで陸上レースの話をされましたね、「美しい体験」と仰いました。それと同じではないんですか？
キャンベル　：
　芸術を見て私たちが感じるのは、なにも美だけではありません―　壮大さもそうです。壮大さを感じさせるものの１つが、いわゆる怪物です。怪物は

、通常の生命体ではあり得ないほどの巨大な力を表しています。また途方もなく広がる空間も、壮大さを感じさせます。
　仏教徒は、壮大さを寺院によって巧みに表現します。私は京都に７ヶ月滞在して、素晴らしい体験をしました。いくつかの寺院の庭を訪れたとき、「

急に目の前が開けて、新たな地平が広がった」ような、そんな感覚を覚えました。なぜか…　私の自我は小さくなっていき、意識は拡大していって「壮

大さ」を感じました。（五重塔（東寺？）、金閣寺、枯山水の庭（龍安寺？）　の映像）

　壮大さを感じさせる、もうひとつのものが巨大な力やエネルギーです。第二次世界大戦中に中央ヨーロッパの都市が、猛烈な爆撃（ゴモラ作戦「ドイ

ツのヒロシマ」、下記リンク）を受けたとき、その最中にいたという人がこう言っていました「あの爆撃は、ある意味で壮大なものだった」とね。
http://www.google.co.jp/search?q=Operation Gomorrah&tbm=isch

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私は、第２次大戦の退役軍人にインタビューしたことがあります。彼が経験したバルジの戦い（D-Day後のナチスの逆襲）について、こう尋

ねました「いま振り返ってみて、それはどういうものでしたか？」、すると答えは「壮大でした」。
キャンベル　：
　（「まさにそれ」的に指を鳴らして）怪物と、同じです。怪物とは、調和や倫理などについて人間が持つ基準をことごとく打ち砕くものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　怪物の壮大さについて語る神話は、何かありますか？
キャンベル　：
　世界の終わりに現れる神の物語です―　例えばインドのビシュヌ神は、世界の終わりに怪物となります。ビシュヌは世界を破壊します　―まず炎によ

って、それから凄まじい洪水でね―　あとには灰しか残りません、全宇宙が滅び去るんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「世界の終わりにキリストが現れる」という説　がありますが。
http://chikyuza.net/archives/5739
キャンベル　：
　それでユートピアが訪れるとは思いません。（ﾓｲﾔｰｽﾞ：　ナゼです？）　キリスト教では倫理が強調されます、神は善だとされています。しかし、世

界の終わりというものは倫理を超えています、倫理など消し飛んでしまいます。「神は常に善だ」と考えるのは、一面的過ぎると私は思います。神は恐

ろしいものでもあるんです。
　アラビアンナイトにこんな言葉がありました、「死の天使は、こちらに来るまでは恐ろしいが、一旦来てしまうと無上の慰めになる」。つまり２つの

面があるんです　―仏教、特にチベット仏教でも、仏は２つの姿で現れます―　慈愛に満ちた穏やかな姿と、恐ろしい怒れる姿です。

　ひとが、自我の小さな世界にしがみついていると、そこから離れさせようとして仏が怒れる姿で現れます。でもその人が自我を克服できたら、今度は

仏は無上の喜びをもたらすものになるんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：
　聖書の中でイエスは「自分は剣をもたらすために来た」と言いますが、その剣というのは自我を解放するためのものだと私は思うんです―　ひとを自

我の束縛から解き放つための。
キャンベル　：
　２つのものを切り離すための剣というものは、仏教でも見られます。文殊という菩薩は、剣を持った姿で表されます　―あの剣は、何のためにあるの

でしょうか？それは永遠なるものから、一時的に過ぎないものを切り離すためです―　「時間の世界」と「時間を超越した世界」を分けるためです。
　チクタクと刻まれる時間は永遠を遮断し、人は時間に囚われて生きています。しかしこの「時間の世界」にも、永遠の原理は反映されているんです。ﾓ

ｲﾔｰｽﾞ：　永遠の原理とは？）　宇宙の最高原理です。私たちはそれを擬人化して「神」と呼んだりします。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　「永遠なるものを体験する」ということなんでしょうか？（キャンベル：　ひとも、永遠なるものです。）
　永遠が何であろうとも、それはいま、ここに存在するわけですね？
キャンベル　：
　もし今ここで、永遠を体験しないなら、決して体験できないでしょう。なぜなら天国へ行っても、天国は永遠ではなく、「いつまでも続いている」に

過ぎないからです。天国は、存在し続けるでしょう―　しかしそれは「永遠」ではないんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どういう意味ですか？
キャンベル　：　永遠は時間を超越していますが、時間は永遠を遮断するんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　・・・時間は、ひとの発明ですね？
キャンベル　：　時間は、ひとの経験です。
　究極の神秘というものは、ひとの経験を超えるので歪められた形で理解されます。例えば「永遠」が、人間の精神レベルに合わせて小さくなったもの

が、私たちの目には「神」と映るんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　どんな経験であれ、私たちは言葉で表現するしかないのですが、言葉は力不足ですね？
キャンベル　：
　その通りです、言葉には限界があります。その中で一番有効なのは、詩です。詩は心に染み込んでいく言葉であり、リズムを持っています。詩は、的

確に選ばれた言葉から成り、言葉を超えた含蓄や暗示を含んでいます―　言葉を超えた輝きがあるんです。その輝きが、ジョイスの言うエピファニーな

んです。
　エピファニーとは、「垣間見える本質」です―　この本質とはヒンズー経で云うブラフマン、つまり宇宙の最高原理です。

○　重要なのは目的地ではなく、人生という旅そのものである

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　これほど多くの人が「永遠の命」を心底願い、天国に自分の居場所を確保しようとするのはナゼでしょうか？
キャンベル　：
　天国とは何でしょうか？　天国とは、この上ない喜びをもたらす神のイメージを目にする瞬間のことです。それは、弾けては散る時間というものを超

越した瞬間です。

　永遠とは「いつまでも続く何か」を言うのではありません、永遠は「いま、ここに」自分の人生の中にあるんです。私は…、今までに両親を亡くしま

したし、沢山の友人たちも亡くしました。でも、決して彼らを失ったのではないと、強く実感するようになりました。
　私が両親や友人たちと共に過ごした瞬間は、永遠に続くものなんです、決して消えることはありません―　あの瞬間は、いまも私と共にあります。こ

れは、永遠とは何かを表すひとつの例だと思います。ドイツの哲学者ショーペンハウアーは60歳ぐらいのとき、ある素晴らしい論文でこう言っています

・・・。

　―ある程度、歳を取り、人生を振り返ってみると、そこにはひとつの秩序があるように見える　―まるで誰かの手で、構成されたかのようだ。ただ偶

然に起きたように見えた出来事も、実は次の展開のために重要な要素だったことが、後になって分かる。この筋書きは、一体誰が作ったのだろうか？　

夢が、自分では意識できない自分自身の何かによって作られるように、人生もすべて自分の内なる意思によって創られるのだ。
　偶然出会った人びとが、自分の人生の重要な要素になるとすれば、自分も他人の人生の重要な要素になるハズだ　―すべては一大シンフォニーのよう

に響き合っている。あらゆるものが、他のすべてのものに影響を与えているのだ。我われの人生はどれも、同じ一人の人が見る夢のようなものだ―　見

えないひとつの意思から生まれている。それゆえ、我われの人生は他の人びとの人生とつながりあい、すべては互いにつながりあっているのだ。―

　素晴らしい思想です。これはインドに起源を持つ思想で、「宝石（宝珠）の網」といわれるイメージです。宝石の網の中では、すべての宝石が他の宝

石を反射して輝きます。あらゆるものは、他のあらゆるものとの相互の関係で成り立っていて、すべては影響しあっています。
　ですから何があっても、誰も責めることは出来ないんです、その人本人の意思で起きたわけではありません。誰一人として、自分の意図した通りの人

生を送る人はいないんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　しかし、私たちはみんな目的を持って、人生を生きていますね？　違いますか？
キャンベル　：
　生命自体に目的があるとは思えません。生命とは何かというと、それは「生存と繁殖の強い欲求を持った細胞の集まり」です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　まさか、そんなことはないでしょう。
キャンベル　：
　いいですか、生命そのものに目的はありません。ただ、あらゆる生命体は潜在的な能力を持っていて、その能力を追求することが「生命の使命」だ―

　とは言えるかも知れません。そのためには、どうすればいいんでしょうか？　あれをすべきか、これをすべきか？　その問いに私はこう答えます、「

自分の無上の喜び＝至福　を追求しなさい」とね。
　ひとには、自分が中心にいるかどうかを知る「内なる力」があります―　自分が正しい道の上にいるのか、それとも外れているのかを知る力がね。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　人生で重要なのは、目的では無いんですね？
キャンベル　：
　そうです、重要なのは人生という旅、そのものなんです―　目的地がどこかではありません。
　以前、ある本でこんな一節を読んだことがあります　―旅をしていると、目的地がドンドン遠のいていくように思える。やがて人は気付く、真の目的

は「旅そのもの」だったのだと。―　まさにこれです。これに気付く瞬間は、この上なく幸福な瞬間です。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私は、エデンの園は過去ではなく、未来に存在すると思っています。
キャンベル　：
　いま、存在するんです。ひとの目には見えなくてもエデンの園は、いま存在しています。

☆注１☆
ﾓｲﾔｰｽﾞ：　インドのシヴァ神の像には、炎の輪に取り囲まれたものがありますね。
http://www.google.co.jp/search?q=シヴァ神　像&tbm=isch
キャンベル　：
　シヴァの踊りは世界であり、宇宙そのものです。彼はカチカチとなる太鼓を（右）手に持っています、それは「時の太鼓」です。時は永遠を遮断し、

人は時の中に閉じ込められます。でもコチラの（左）手にある炎は、時のベールを燃やし去り、私たちを永遠へと導きます。
　頭の部分には、頭蓋骨と新月（の装飾）が有ります　―これは「死と再生」を表すものです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　あらゆる生命についての力強いイメージですね。
キャンベル　：
　自分自身に対する探究の目的は、自らの内の「燃える一点」を見い出すことです。そこには恐れも欲望もありません　―戦士が、揺るがぬ勇気を持っ

て戦場に赴く境地です。
　植物のことを考えて見ましょう―　芝生が２週間ごとに刈り取られるとします。そのとき芝生は「どうせ刈り取られるなら、自分は何のために伸びる

んだろう」なんて言うでしょうか？　芝生はそこに存在し、ひたすら伸び続けるだけです　―ひとの人生も同じです、存在し生き続けるだけです―　す

べての神話は、それを教えようとしているんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　私たちには、肉体とは何なのかすら分かりません。しかし自分の理解を超えたものに出会ったとき、いわば「ある輝き＝エピファニー」を経

験するということは知っています。
キャンベル　：
　そのとき人は自分自身の中に、神の言葉を見い出すことができます。オウムという音は、神の言葉を象徴する神秘的な音です。（チベット仏教本来の

）オウムという素晴らしいものを知ることが出来れば、ひとはもう何かのために死んだりする必要はなくなります。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　オウム？それは何ですか？
キャンベル　：
　オウムとは…、そうですね。いわば宇宙の、宇宙のエネルギーを私たちの耳に伝える音です。オウムは到るところに存在します―　私たちはただじっ

と座って、それを体験すればいいんです。オウムという音は、こう発音します―　まず喉の奥からアー、次に口をすぼめてウー、そして口を閉じてムー

。正しく発音すれば、このオウムの中に全ての母音が存在します　―子音は「オウムを阻害するだけのもの」と見なされます。
　あらゆる言葉は、オウムの１つの表れです。それはちょうど、あらゆるものが宇宙のエネルギーの表れであるのと同じことです。ですから、オウムは

象徴的な存在なんです。オウムは人を脈動する存在、即ち宇宙に触れさせる音なんです。

　チベットの僧たちが「オウム」と唱えているのを聞くと、それが何を意味しているのかが分かるでしょう。それは、この世の枠を飛び越えることです

。それを感じることは、最高の幸福です―　マズローの言う至高経験です。
　アーウーム、（アー）生まれる、（ウー）存在する（ム）死ぬ、それがサイクルになっています。オウムはアー・ウー・ム、３つの音を含みますが、

実は４つの要素で構成されています―　アー・ウー・ム、そして「沈黙」です。すべては、その沈黙から生まれ、そこへ戻るんです。

　私の人生はアー・ウー・ムですが、その根底には沈黙があります―　それは私たちが「永遠」と呼ぶものです。限りある生命のその根底に、不滅のも

のが存在するんです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　それが何かは言葉では言えませんね？
キャンベル　：
　そうです、言葉で表すことは（シヴァ神の太鼓を叩く右手の動きをしながら）「枠をはめてしまうこと」になるからです。

ﾓｲﾔｰｽﾞ：　でも私たち無力な人間は、その不十分な言葉を使うしかないですね。言葉は美しいが、限界があります。
キャンベル　：
　そうですね、最高の瞬間＝至高経験　というものは、「言葉を超越した実感」なんです。
　「嗚呼・・・」、それだけです。

[　Joseph Campbell ,1904-1987]

☆注１☆から　オシマイまでの映像は
地下鉄サリン事件発生後の、NHK教育での再放送でカットされてました。

（Mr.Kさま、御覧の皆さま、長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
安倍シディアス操る暗黒面メディア（洗脳・えん罪・五輪祭り）に、
内なる「静かな一点」を見失わされる度に読み直しに来たいと思います。）

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